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【実話】 わが家に入って行く男

名古屋近郊の、80世帯ほどが入居する集合住宅に住んでいた頃の話だ。

ある日、妻の友人が幼い子供を連れて遊びに来た。ひとしきり談笑した後、友人の帰り際の事だ。私が玄関のドアを開けて、ストッパーで固定した。

後から妻と友人が玄関を出た。わが家はエレベーターホールの前にあり、エレベーターまでは10メートルほどの距離なので、私と妻は開け放った玄関のドアの前で友人を見送った。

友人の後を、4歳になる子供がパタパタと追いかける。エレベーターの前で友人と子供が振り向いたその時、「あ、おうちにオジチャンが入って行ったよ」と子供が叫んだ。

私たち夫婦の周囲には誰もいなかったのだが、開け放ったドアから男性が入って行ったと子供が言う。
「えー、○○ちゃん、誰もいないよ。へんな事言っちゃダメよ」
と友人が取りなすが、
「オジチャンが入って行った」
と子供がまた言う。
ちょうどエレベーターがやって来て
「ごめんねー、また来るねー」
と言いながら友人はエレベーターに乗り込んで行った。

 「やっぱりいるんだね」と話しながら、私と妻は家に入った。

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