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松野志部彦
2021年5月4日 11:01
快晴とまでは言えないものの、ほんの一時間前まで空は明るく、夏の陽気を湛えていたというのに、なにが気に食わなかったのか、重々しい雲を呼びこんで不機嫌になり始めた。海岸と山々に挟まれたその町は、なにより天候が崩れやすいことで知られていた。 間もなく最初の一滴が落ちてくると、少年はランドセルを鳴らして駆けだした。傘を持っていなかった。朝、うっかり忘れてしまったのだ。坂道のカーブを上がり、段々に連な