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原点は、クラブと地域が思い合う心|松本山雅代表取締役社長 神田文之 インタビュー(前編)

松本山雅FCは、街からうまれたサッカークラブ。
発足当時から続く地元のサポーター熱が、今もクラブを支えています。

クラブも地域に根ざした活動を続け、2020年4月末には毎年行うサポーターミーティングをクラブ史上初めてオンライン上で開催するなど、どんな状況下でも、サポーターたちとのつながりの場を大切にしています。

▼2020 松本山雅FC WEBサポーターミーティング


代表取締役社長の神田文之氏も、常に頭の中は松本山雅と関わる人たちとの関係性が最優先。選手時代自らも所属したことのあるクラブで、現在は2015年から経営側に立って、クラブの未来を考えています。

今回はそんな神田社長が考える松本山雅の「ハブ構想」今後目指す未来について、事業PRパートナーであるquodの共同代表・中川雅俊からインタビュー形式で聞いてみました。

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神田文之(かんだ・ふみゆき):1977年9月29日生まれ。山梨県出身。東京学芸大学卒業後、当時J2のヴァンフォーレ甲府に入団し、サッカー選手としてのキャリアをスタートさせる。2005年、当時北信越リーグ2部の松本山雅FCに加入し、その年の優勝に貢献した。2005年をもって現役を引退し、東京都内の不動産関連企業で営業職に従事。2012年4月より株式会社松本山雅に入社。2013年2月に総務部長、2014年4月より取締役管理本部長を歴任し、総務・営業業務を務める。2015年より代表取締役社長に就任。

原点は、クラブと地域が互いに思い合う心

中川:神田さんは、どんな時でも地域のことを中心に考えている印象があります。その根幹は何ですか?

神田:選手として昔在籍していたとはいえ、急成長している過程に参画してはいなくて。僕が2012年に社員としてこの会社にきた時には、すでにある程度クラブが出来上がっていたので、ここまでの過程を尊重することが、一番良いクラブとの関わり方だと思ったんです。

その成長は、誰か一人の力によるものではなく、地域の人々の「地域が良くなったらいいな、楽しくなったらいいな」という気持ちが結集されてできたということがひしひしと伝わってきて。
山雅の歴史を紐解くと、地域の人々が地域を想う気持ちが原点だと思ったから、そこは変えちゃいけない気がしました。

ある意味、僕も山雅のやり方に染まっていったんだと思いますね。僕がもし他のクラブに携わっていたとしたら、違うやり方になっていただろうし。自分の性格に山雅との親和性を感じたことも、今こうして山雅を引っ張って行かせてもらっている理由の一つかもしれません。


中川:選手時代からさまざまなサッカークラブと関わってきたと思いますが、選手としてプレーする側・組織の中にいる立場として感じる、山雅と他のクラブとの違いはありますか。

神田:選手として在籍していた当時は、他のクラブと比べると、クラブ全体がとても素朴な雰囲気で、人のあたたかみが圧倒的に強いと感じていました。社長や働いているスタッフみんなの顔がわかるし、純粋にこのクラブを思う気持ちで人が集まっていて、そこにはエゴがなくて。逆にこれでJリーグを目指せるのかな?というくらい(笑)
改めて当時を振り返ると、そもそも、クラブを想う純粋で確かな気持ちがないと、そこに関わる人たちの輪は広がらなかったんじゃないかなと感じています。

今は、自分が社長を務めていることも含めて山雅らしく見える部分もあると思っていて。その山雅が当時から持っている純粋さ、素朴さは、これからも大事にしていきたいと思っています。

中川:そこが、山雅がサポーター含めて人に愛される理由なのかもしれませんね。


中川:神田さんは、松本山雅の「資産」ともいえる、”地域の人たちがクラブを想う気持ち”を形にしていく取り組みをされていると思います。始めたきっかけは何でしたか?

神田:山雅を離れていたときも外からクラブの成長を感じていましたが、山雅に戻ったとき、地域ごと盛り上がっているのを改めて実感しました。良いサポーターがついてくれているので、これをもっと発信することで、サッカーチームとしてはもちろん、ビジネスにおいてももっと大きな力にできるなと感じたんです。

今は模索している最中ですが、その応援の力でクラブを強くするという流れを作りたいと思っています。やはり元選手として「このチームで優勝したい」という気持ちもありますし、市民クラブの範囲で終わるのではなく、まずは日本一、そして世界一を目指す勢いで進んでいきたいです。
この地域の盛り上がりには素朴ながらもそんなパワフルさがあると思いますし、「2代目」として、その力をビジネスでどうつないでいけるかを追求していくフェーズにしなければならないと思っています。

中川:やはり選手としても、ビジネスマンとしても、山雅とそれ以外の組織を行き来した経験は大きく影響していますか?

神田:大きいと思いますね。山雅の中と外部を行き来したことで、見える景色の幅が広がりました。


中川:僕たちquodは地方の中堅企業と仕事することが多いのですが、いろんな地域と関わる中で、人が地域に求めることの一つに「居場所感」があると思っています。新しくその地に関わるとなったとき、地縁や地元の人たちの「ウェルカム感」がないと、仲間に入れた感じがしないんじゃないかなと。
神田さんは外からの視点も持っていながら、以前選手として在籍したこともあり「山雅ファミリー」の一員であるという”ちょうどいい”存在なのではないかと思いました。

神田:そうですね。自分を社長に任命した前社長の人事は、そんな山雅のストーリーをつなぐためだったんだと解釈しています。山雅としてどういう姿をサポーターに見せるのがいいか考えたときに、「家族の一員」みたいな人をリーダーにした方が応援したくなるんじゃないか、という判断をしたんだと思っています。

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地域の人たちを巻き込み、「ハブ」になりたい

中川:そういった経緯がある中で、松本山雅が考える「ハブ構想」は、神田さんの次へのステップとして象徴的な取り組みなんじゃないですか。

ハブ構想についての過去記事:松本山雅FCとquodが目指す、地域とプロスポーツの新しい関係性とは?(マイナビニュース)

神田:「応援を力に変えていく」ことは、自分たちだけでは実現できません。山雅には、外からもらった力を原動力に、また何かの力に変えていくというサイクルを作ってきた歴史があります。また、僕個人としても、多くの人を巻き込んで何かを作り上げていくということに多少の成功体験があると自分では思っています。
クラブの強みと自分自身の強みを掛け合わせることで将来が描けると信じているので、ハブ構想は、これからの山雅にとって重要な柱にしていきたい考え方です。

中川:ハブ構想は、山雅が中心となってコトを進めていくのではなく、山雅が人と人、事業と事業をつないでいくという考え方ですよね。地元企業の精神・文化から地域の文化が成り立っていることも多くあると思うのですが、神田さんのハブ構想はどういうところから出てきた考え方なんでしょうか?

神田:やっぱり、山雅の成長過程そのものですかね。この地域のサポーターの応援と熱量によって育った山雅のストーリーを今度は地域に落とし込む、みたいなことができたらいいなと思っていて。
圧倒的なサポーターの数や熱量が山雅の強さや地域の価値につながってきたんだと実感しますし、もっと違う影響力を生むんだろうと思っています。逆にこのサポーターの力がないと、山雅も他のビジネスも成り立たないのではないかとも。だからこそ、山雅が地域のハブになって良い循環を生み出していきたいです。

中川:地域のモチベーションとサッカーがリンクしている街ってそんなにないと思うんです。
以前、おやき屋さんを営むサポーターの方が「試合の日は、間に合うようにおやきを売り切るんです!」と話していて。お客さんも試合前に間に合うようにおやきを買いに来るそうで、松本市民がサッカーベースのライフスタイルを送っていることに驚きました。

神田:「試合の日は街から人が消える」と言われていますね。初めてドイツを訪れた際に「週末は地域ぐるみでサッカーを観戦する」という歴史的な文化を目の当たりにしたのですが、これに似たようなことが、サッカーに先進的ではない松本の街で起こっている。これを力に変えないと山雅の未来はないだろうなと思いました。


中川:大都市のビッグクラブだと、スポンサーをはじめとするステークホルダーのことを考えながら活動に取り組んでいるところが多いと思います。
山雅の場合は、サポーターに受け入れられる行動であるかどうかを一番大事にしていて、それが山雅らしさにつながっていると思います。

神田:直近でいうと「One Soul, One Heart」プロジェクトもそうですね。

「One Soul, One Heart」プロジェクトについてはこちら

中川:やはり、クラブとして誰を大切にするか、というのは意識されているんですか?

神田:そうですね。もちろんどのクラブも、「サポーターのために」と考えていますが、我々のような市民クラブと比べると親会社やスポンサーのことを考えてクラブ経営をせざるを得ない側面があると思います。本当にサポーターを第一に考えているかというと、そうでない部分もあるかもしれません。そんな中で山雅は、昔からきちんとサポーターの方を向いて活動していて、そこが大きな強みだと思っています。

中川:ハブ構想を進めていく上で、課題だと感じる部分はありますか。

神田:実際に「ハブ」になれる力を持つ人材育成が課題です。「この人の強みとあの人の強みをつなぎあわせたら力になるよね!」というように、人やスキルをコーディネートできる感覚が必要だと思います。それができる人材をたくさん生んでいきたくて。人と人とをつなげることの難しさを感じています。

中川:頼りやすかったり、困っていることをさらけ出せたりする仕組みを作ることが必要なのかもしれませんね。そのようにさらけ出せる関係が、先ほども話に出た「居場所感」につながるのかなと思います。

神田:そうですね。思っていることや悩んでいることを素直に表現することは難しいことかもしれないけれど、僕自身も、正直に意見を言い合えることが大切だと思っているので、これからもそういうオープンマインドを育める組織にしたいと考えています。
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山雅の「資産」ともいえる原点は、サポーターたちとの強い絆。どんなときも応援してくれる人たちに向き合っていたからこそ、その応援を力に変えて、クラブも大きく成長しました。

次のステップは、その絆を形にして世の中に発信していくこと。地域の人々をつなぐ「ハブ」の役割は、山雅だから果たせるものだと信じています。

後編では、松本山雅のホームタウン活動に焦点を当てながら、神田社長が考える地域貢献について聞いていきます。
(後編へ続く)


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インタビュー:中川雅俊
編集・執筆:柴田菜々 / 宮本倫瑠


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