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年々「過去を振り返る」人間になっている

実家が自営業ということもあって、毎日店にはお客さんが来ていた。田舎なのでその大半は高齢者。戦争の話や、この土地に嫁に来た頃の話など、みんながみんな過去の話をしたがる。

「大人って、なんでいつまでも過去にしがみついているんだろう」

そんなことを思っていた自分も、気を抜くと過去の話ばかりしていることに気づいた。今まさに話していることも過去のこと。

でも、そもそも私はエッセイが好き。エッセイの多くは、その人の過去に触れるものが多い。人や土地の歴史を感じられるものが好きなんだ。


ちなみに2022年から2023年にかけても、相変わらず過去を振り返っていた。内省の連続。

その中で読んだ本を、これまた振り返らせてもらう。

本屋で待つ/夏葉社(佐藤友則・島田潤一郎)

田舎の書店「ウィー東城店」を舞台にした話。
地方の、ただの小売店ではない。物を売ることを通して、地域の人と心を通わせたり、信頼関係を築いたり。

お金を稼ぐだけではなく、というか結局お金を稼ぐことにも繋がる…商売をする上での本質的な「人との関わり方」を垣間見たような気がする。

印象的だったのは「ウィー東城店」に、学校に行けなくなった人たちがバイトし始めて、それぞれが自分なりの輝きを見出していくエピソード。
ある種異質な“教室の中”だけの社会ではなく、それ以外で、自分の居場所はちゃんとあるんだと気づかせてくれる。そんな役割を自然と担っていた、店主・佐藤さんの存在はすごく眩しく見えた。でも、この本を読むと泥臭い努力もちゃんと見えるからリアリティがある。

特に田舎は、学校に行けなくなった人=ダメな人、とみなされる傾向にある。少なくとも私の地元はそうだった。
私はある時、毎朝ベッドから天井をぼーっと眺めながら「今日こそ、学校に行きたくない、と親に言おう」と何度も心の中で誓うだけで終わる日々を送っていた。周囲から、親から「ダメな人」の烙印を押されるのが怖かったから。

そんな自分の近くにも、こんな居場所があったら良かったな、と少し思う。
まぁ、居場所があるだけじゃなくて、結局その人自身が行動を起こすかどうかだよな。この本に出てきた何人かの方は、決断して行動を起こしたから変われたんだ。


山羊座/WAVE出版(石井ゆかり)

こちらは10年ぐらいまえに、友人にもらった本。
なんとなく節目のタイミングで読み返している。自分の心理状況とか、置かれている環境によって響くことも違うので、読み返すたびに新しい発見がある。

あとがきで、石井ゆかりさん自身が「占いは信じるべきではない」と書いているのもなんだか好き。穴が開くほど読み込んで、この本を人生のバイブルにしているよりも、たまになんとなく読み返しているぐらいの、この心構えでいいんだ、と思わせてくれる。

本の中には、山羊座は合理的だとか
慎重、真面目、努力家だと言われるのがなんとなく嫌だと思っている、といったことが書かれている。なんていうか「結局自分は地味ってことじゃん」って思ってしまうんですよね。
でも、感情が高ぶると、思いもよらない行動に出て、何かを破壊する。山羊座に限らないかもしれないことだろうけど、どこか思い当たる節があるのはやっぱり楽しい。


結果を大事にする傾向にある、というのもすごく腑に落ちた。
Twitterで宮田シロクさんが言っていた言葉とリンクする。

劇場/新潮文庫(又吉直樹)

実は、又吉さんの「火花」も読んでおらず、彼の著書を今回初めて手にした。芸人さんとしてすごく好きなので、小説を読むことで「あまり自分には合わないかも」と思ってしまうことが怖かったから。

主人公は、劇団を主宰する永田。ひょんなことから出会った沙希との関係、劇団の現実をメインに描かれているが、とにかく永田がいけすかない!!

劇団について、うまくいかないというストレスがあるなかで、沙希の、賢さゆえの行動と純粋さに触れたときの永田の言動は、見ていられない。でも、現実にもがく永田の気持ちも分かってしまう。

やるせない気持ちになっている自分の器の小ささと、それを凌駕する沙希の広い心を目の当たりにすると、あんなイラつき方をしてしまう。あのどうしようもない気持ちは、泣く一歩手前の、苦しい心に支配されている感覚。

いつだって、気づいた時には遅いというか。もう戻れないんだよな。

過去の後悔を、自分もふと思い出してしまった。なんて苦い本。


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