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修羅の門という化け物マンガの魅力 2章


『修羅の門』/川原 正敏

このマンガを評する時、
「泣けるマンガだ」と推す人は少ないと思います。

でも僕は思うんです、
修羅の門は泣けるマンガである、と。

ボクシング ヘヴィ級王座という頂き

全日本異種格闘技選手権を制した陸奥九十九(つくも)。

1000年無敗の古武術、
陸奥圓明流(むつえんめいりゅう)、最後の継承者が
次に選んだ舞台は、アメリカ プロボクシング。

中でも最難関の頂き。
ヘヴィ級王座です。

ことわっておきますが、
九十九の体格は、170センチちょっと、体重も60キロちょい、
とうていヘヴィ級で戦えません。

理不尽との戦い テディ・ビンセントとの出会い

星条旗の英雄・別格の存在。
これが、アメリカ人にとってのボクシング ヘヴィ級王者です。

黄色人種である九十九はリングに上がる前に
あらゆる差別、風評被害、心ないバッシングを受けます。

リングに上がること自体が困難なんです。

そんな時、九十九の隣にいて、
常に一緒に戦った人物がいました。

テディ・ビンセントさん
日系二世のアメリカ人です。

九十九のトレーナーを引き受けた人物。
アメリカにおいて九十九の数少ない味方。

九十九がアメリカに渡った時、
テディさんはボクシング界から退いていました。
理由は、リングの上で愛弟子を失ったから。

愛弟子を(あくまで結果として)殺したのは、
伝説のトレーナー、エザード・ロスの教え子の一人でした。

「エザードの息子たち(ボクサー)に勝てるボクサーは
 ぼくには育てられない・・・」
そう思い、テディさんはボクシング界から引退しました。

九十九が挑むのは、
エザードのラストサン・アリオス・キルレイン
テディさんのサポートは絶対に必要なんです。


アメリカ編の第1ラウンド 九十九 VS テディさん

テディさんを味方につけなければ
アメリカのリングに立つことはできない。

何としても説得しなければなりません。

最初、テディさんは九十九のトレーナーになることを断ります。
僕はジグソーパズルが趣味のただの老人だと。

しかし、九十九。
部屋に隅に隠されたサウンドバッグを引っ張り出し
こう言います。

「ジグソーパズルは、
 いくらむずかしくても、できあがる絵はきまってる・・・

 もう一度、自分の手で絵を描いてみないかい・・・
 テディ・ビンセント・・・
 
 もう一度 エザード・ロスに挑戦しようじゃない・・・」

そういってテディさんに握手を求め、手を差し出します。

テディさんは言います。
その体格でアリオスに挑むなんて・・・
「神様にケンカを売ってるのと同じことよ」

九十九は手を差し出したまま言います。
「そのとおりだよ。
 陸奥の一族は 千年 神様にケンカを売ってきたんだ・・・」
と。

なんという台詞の応酬。
結局、最後テディさんが折れ、九十九のトレーナーを引き受けます。

九十九の見事なKO勝利です。

教えたことは一つだけ

テディさんが九十九に教えたのは一つだけ。

「Stand and Fight(スタンド アンド ファイト)」

立って、そして戦いなさい。

これだけです。

九十九の圓明流(えんめいりゅう)は
すでに完成されたファイトスタイルです。

それをボクシングのルールにはめ込むのは良くない、
そう判断したテディさんは、

「人にはそれぞれ身についたクセやリズムがあります。
 大切なのは、それらの良いところをのばすことです・・・」

ボクシングのことは何も教えず、
九十九に気持ちよく練習してもらうことだけを考えました。

そんな九十九はテディさんとの練習についてこういいます。

「たのしいよ・・・
 オレは生まれた時から、こればっかりやってきた。
 だから、つらいと思ったことは一度もない・・・
 かわりに楽しいと思ったこともね。
 それがテディさんだと たのしいんだ」


「あの人に『これ一発でOKよ』なんて言われると、
 本当にそんな気がしてくる」

繰り返しますが
テディさんが九十九に教えたことは一つ。

「Stand and Fight(スタンド アンド ファイト)」

これだけなんです。


アリオス戦の後に見せた陸奥の笑顔

死闘の末、九十九は勝ちます。
満身創痍、全身ボロボロになりながら、アリオスを倒し、
控室にもどる九十九たち。

グローブを外すと、
そこから血まみれになった拳が現れます。

血に染まった頬。
砕けかけた拳。
内出血を起こした腹筋。

そんな九十九の体を見ながらテディさんは言います。

「な・・・なぜ!?
 アリオスが反則をしてきた時、
 圓明流のキックやサブミッション(関節技)を出さなかったの⁉

 ボクのため⁉
 なら、バカなことよ・・・
 ボクはボーイ(九十九)をここにつれてこれただけで満足よ・・・
 なのに・・・

 バカなことを・・・
 ボクはボーイに何も教えられなかった。
 ボーイは自分の力だけでアリオスに勝ったのに・・・」



テディさんの言葉に九十九は静かに語ります。

「技はじいちゃんや兄さんに、
 イヤっていうほど教わったよ・・・

 でも。
 ひとつだけ、
 テディさんにしか教わらなかった事があるよ」

そういってチャンピオンベルトを手に取ると
微笑みながら、こう言います。

「Stand and Fight(スタンド アンド ファイト)

 テディ・ビンセント・・・
 オレには他にかえせるものがない。

 ありがとう」


涙をポロポロこぼしながら
九十九が差し出したチャンピオンベルトを抱きしめるテディさん。

そして・・・

「バカ・・・ね
 ボーイは本当におバカさんよ・・・

 でも・・・
 その世界一のおバカさんと ともに戦えたこと・・・

 いつまでも いつまでも・・・
 誇りに思います・・・」


そう陸奥九十九はバカです。
バカならば、すでに地上最強の座はつかんでいます。

人の心を震わせるほどのバカ。

このシーン、何回読んでも涙がこぼれます。



今なお輝き、色あせない伝説の漫画です。

修羅の門、一人でも多くの人に読んで欲しい。

このnote記事も3章まで続きます。

それではまた。










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