【随想】 狂乱列島の住人たち
店の入口に設置かれた消毒液が、寂しそうにしている。
誰もがその存在を気に留めることもなく、店に入ってしまうからだ。消毒液に対する人々の無関心さは、まるでコロナ禍以前に戻ったかのようである。
早朝、開店前のドラッグストアに並んでまでしたあのマスク争奪戦は、いったい何処の国の出来事だったのだろうか。
ひとつまみの“噂”で狂乱する列島。
熱しやすく冷めやすい国民性。
「喉元過ぎれば熱さを忘れる」という言葉もあるが、この国の住人の頭には「喉元を過ぎぬ前から熱さを忘れる」──正確には「忘れたい」か──という思考回路が組込まれているのではないかと思えてならない。
それは兎も角、素通りされる消毒液が余りにも寂しそうなので、今日もポンプの頭をシュポシュポして、手をブビビンマンのようにスリスリして入店する老生なのであった。
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