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農業に”本気で”取り組み、チケットに並ぶ収益を目指すJリーグクラブ(#2/2)

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地元農家と全国サッカーファンを繋ぐ新規事業

Jリーグクラブである福島ユナイテッドFCは、自分たちで育てたり地元から仕入れた農作物をどのように販売・PRしているのでしょうか?

当初は、アウェーの試合会場で福島県内の観光パンフレットを配布することにより来県を呼びかけていましたが、踏み込んだ活動として、県内の農産物、加工品を仕入れて販売・PRを行う“ふくしマルシェ”がスタートしました。アウェーの試合会場や提携クラブである湘南ベルマーレのスタジアムなどで出店を行い、1度の開催で20~40万円ほどの売上となります。新型コロナウイルス感染症が拡大する前の2019年には、農業部の活動で年に約700万円の売上がありました。これは、ファンクラブ会費による収入と同額程度になります。

2018年には、福島県が桃の輸出先として力を入れるタイでPRすることを目的として、タイリーグ所属のチームと親善試合を行う“Fukushima PEACH MATCH”が開催されました。

これら出展販売での最終目標は、商品を購入した方を生産者からの直接購入に誘客することです。しかし、生産者でお取り寄せ用のHPを保有していない、あってもそれをPRする媒体がないなどの理由で、思ったように誘客につながっていませんでした。

そこで、2020年に「福島ユナイテッドFC農業部公式オンラインショップ」をオープン。これにより、生産者と消費者のハブとなって「いつでも、何度でも」取り寄せてもらえるようになりました。オンラインショップでの売上は好調で、今年は農業部全体で1000万円を売上目標にしているとのこと。これはチケット収入に並ぶ数字になります。

地元の資源や課題に本気で手を出し、それをどうしたら広げていけるか考えた結果、新しいビジネスの軸にまで発展した農業部。好調の要因は、明確なターゲット設定も影響していました。

福島ユナイテッドFC農業部は、他のオンラインショップと競争しようとしているのではなく、「サッカー好き」がターゲットとなっているのです。スポーツ競技は普通、応援しているクラブ以外のグッズを買うことはありませんが、サッカークラブが地域課題の解決に向けて作っている農作物ということで、他クラブのサポーターにも購入してもらえる状況がつくられています。

人口という限界を突破する地域事業

Jリーグクラブはホームタウン制度があるので、基本的にはマーケットの限界との闘いとなります。拠点のある地域の人口がそのままクラブの規模となり、J1の観客動員数は人口の1%と言われており、J2やJ3はもっと低いです。事業拡大で他エリア(仙台や山形)に進出することはできず、親企業や巨大企業のバックアップがあるかどうかでも事業規模が変わってしまいます。

そのため、サッカーに依存しないビジネスの軸をつくることや、地元に福島ユナイテッドFCの存在を確立することが重要でした。今回は農業部をピックアップしましたが、それ以外にも多くの地元に密着した事業を展開しています。

飯坂温泉から5分の十六沼公園にはグラウンドを3面整備して合宿地として売り出し、小学生向けのユナイテッドカップやOYAJIカップを開催することでPR・誘客しています。また、飯坂温泉とは食事・温泉の活用で選手のコンディショニング面の連携をしており、地元治療院とはトレーナールームを設置、福島医大とは医療面で連携をしています。

プロスポーツは、ファンに夢や感動を与えることが第一義です。ただ、大きな資本やマーケットを有さないクラブは、第一義を提供し続けるためにも別軸の収益事業も必要となってきます。Jリーグクラブは“地域密着”をうたっているため、福島ユナイテッドのように地域課題の解決を事業にできればベストではありますが、そう簡単なものではありません。クラブの特徴や、展開・開拓しようとしている事業・地域課題に真剣に取り組むことで、スポーツクラブが取り組む意義に成るのではないかと思います。

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