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【絵本はスンゴく面白い!】第6話 沖縄の絵本 ふなひき太良(たらあ)

※この記事は2021年2月に執筆した記事に加筆・修正したものです。

 どうもこんにちは、絵本専門士のMATSU-Gです。
急に暖かくなってきてもう沖縄の冬は終わりかな…と思っていたら、また今週末から肌寒くなってきましたね。まだまだ寒くなるのはちょっとだけ嬉しいです。
んで、2月は気候やらなんやらに負けない「絵本のつよい『たろう』たち」を取り上げさせていただきます。絵本の世界にはそりゃあまあ凄い「たろう」がいるのですが、今回は沖縄代表『沖縄の絵本 ふなひき太良(たらあ)』をピックアップしてお届けさせていただきます。(読み方は「たらあ」ですが基本的にはたろうと同意なので)

『沖縄の絵本 ふなひき太良(たらあ)』
作:儀間比呂志
発行所:岩崎書店
発行年:1971年3月

〈天から使わされた大男〉


 飢饉があって貧しい村の浜に、小さな男の子が捨てられていました。村に住んでいるおじいさんは彼を拾って太良と名付け、一所懸命育てました。
いつの間にか人の何倍も大きくなった太良は、毎日働きもせずねてばかりのぐうたらもの。皆にはやれやれと思われつつ、おじいさんは可愛い子の為に日々頑張ります。
 そんな中、酷い台風やら年貢を取りに来た薩摩の役人とかがやってきて、もうてんてこまい。皆が肩をがっくり落としながら困りに困っていると、今まで寝ていたばかりの太良がむくっと起き出して…。
 悪いやつに対して正義の味方が一矢報いるっていう基本的なスタイルのお話はありきたりな感じですが、「台風」「飢饉」「薩摩の役人」みたいな沖縄に非常に関連深い問題等も織り交ぜられています。起承転結もしっかりして子ども達もわかりやすい構造の中に、色々と深読みしたくなるような描写もあって、シンプルながら何度も読みたくなるような一冊です。判がとても大きいので、絵の迫力も存分に伝わります。
 太良のキャラクターも人となりも後半からしか捉えきれませんが(前半はほとんど寝てる)とにかく村の人の為に愚直に行動しようとするまっすぐな青年像が見られます。いい意味で考えたことをばっとやろうとする太良の性格は、大きな身体と表紙の船を引っ張るシーンに現れていると思います。

〈沖縄版画界の重鎮、儀間比呂志さん〉


 作者の儀間比呂志さんは、沖縄では知る人ぞ知る木版画家。沖縄の気候や風土、戦争や歴史を題材にした作品を多く作っており、絵本では『ねむりむし・じらぁ』などがあります。晩年にはMONGOL800と一緒に本を出したりと、最後までアグレッシブに活躍していた人でもあります。
沖縄といえば美しい風景とか自然とか優しい人たちみたいなステレオタイプなイメージを想像しますが、その中に含まれる目をそらしたくなるような部分をきっちり描いてきたのが儀間さんです。なので作品は軒並みテーマがどっしりとしています。
にもかかわらず絵本がキャッチーな印象を持つのは、儀間さんの作る版画の力にほかなりません。この作品だと島に咲く植物の雰囲気や波の表現などは、版画でしか作ることが出来ない独特の臨場感を出していると思います。必見!
また、儀間さんは青年期に約3年間、当時日本統治下にあった南洋群島の「テニアン島」で過ごしていたそうです。その時の経験も、もしかしたらこの絵本の村の描写に生かされているのかもしれません。

〈沖縄の全部を描く〉


 この絵本の後書きで、儀間さんはこう書いています。

「沖縄はけっしてうわべだけの『守礼のくに』ではありません。また、くるしい生活をただじっとがまんするだけの島人ではありません。いまでも沖縄の人たちは、自分たちのほんとうの生活をかちとるために、戦いつづけています。それらのことを私は、これまで二十年のあいだ、木版画にほりきざんできました」

 それは今でもずっと変わらず漂っていることではありますが、そのことをただつらつらと暗いトーンで書き続けるのではなく、ありのままの綺麗な描写もきっちり表現しながら作品を生み出してきた方なんだと思います。この絵本に出てくる太良も、そういう意図の元生み出された存在です。鬼退治も、海の底にいくことも、恐ろしい怪物を倒すこともしませんが、私はこの太良も強くて優しくてかっこいい「たろう」の一人だと感じました。
 村が危機に陥ったときに神様が使わせてくれた大きな存在。
でも最後は天に帰る。天は人を助けるけど、でも最後に立ち上がるのは自分たちの力で。そんな沖縄の人たちが持っている底知れぬバイタリティを信じているかのような『沖縄の絵本 ふなひき太良』。こんなときだからこそ、手にとって読んでみませんか?

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
絵本専門士のMATSU-Gでした。

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