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清掃車が好きな子に絵本の選書をしたらとても喜んでくれたお話

選書の依頼は突然に

絵本専門士として活動しようとすると、その内容は多岐にわたる。
保育士や医者や弁護士のように「この資格を取ったからこれができる」というものではなく、その人のバックグラウンドや興味関心によって一人ひとり異なっていくからだ。
かくいう私もその一人。他の人がしていないことを色々していきたいし、今後もやっていきたいと思っている。

でも、なかには共通しているものもあったりする。
その中でも特に多いんじゃないかと思うのが
「おすすめの絵本ありませんか?」
「こういうの探しているんですけど、ぴったりの絵本ってないですか?」
というもの。いわゆる選書である。

私もよく人に聞かれることがあるのでその度に色々な絵本をおすすめするのだけど、つい最近あった選書依頼は面白かった。
私が仕事で訪れている保育園のsさんによる依頼で

「2歳の息子がゴミ収集車(以下清掃車)が好きなんですけど、清掃車がメインで出てくる絵本ってないですか?」

というもの。
ほう、なるほど。

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↑これのことか。

昔から男の子は「働く車」が好きな子が結構多かったりする。あのロボットっぽい力強さと繊細な動きは確かに魅力的だ。
しかし、その多くが
「ショベルカー(ユンボ)」
「ダンプカー」
「クレーン車」
みたいないわゆる工事現場で動いている機体に心を奪われがちである。もちろんそれ以外の車が好きな子もいることにはいたが、保育士をやっていた時の主観だけで語れば、大体は3種が華型として扱われていた。
私もうーじ倒し(サトウキビを収穫する作業のこと)の時に颯爽と現れてはいくつもの束を運びあげるクレーン車が来るたびに、親の静止を振り切っていつまでも眺めていたなぁ。

それが、清掃車を好きだなんて。
いやもう、まことに全くもって…

最高だな!

と思った。
清掃車、確かに一見地味に見えるフォルムではあるが、むしろ私たちの生活に一番身近な存在とも言える。その活躍無くして、日常生活を安全に送ることができないほどの重要な存在だ。
基本は2人1組で運用し、目的地に着くたびに後ろから華麗に飛び降りた職員が、手際良くゴミ袋を投げ込んでいく。
大量のゴミをばりばりと平げ、圧縮していく鋼の機構。
それを見届けながら、またクールに定位置に着いた職員を乗せて次の目的地へ進んでいく。
その地域独特の、愛らしいメロディーを響かせながら。


子ども頃の私は目先のかっこよさばかりに囚われていたが、今回の彼に至ってはわずか2歳にしてその魅力がわかっているというではないか。
話によると、YouTube等で各地におけるゴミ収集車のメロディを定期的に聴いて楽しんでもいるのだとか。多くの住民にとってはどこか「焦り」を覚えてしまうあの音色も、彼にとっては福音にほかならない。
すっかり感動した私は、その願いを是非とも叶えてあげたいと思った。

選書をするにはリサーチと分析

今回の選書は「2歳の子が見る清掃車がメインの絵本」である。
話を色々と掘り下げていくと、その子(以下h君と呼ぶ)はどうもその清掃車のディティールだけでなく、それにまつわる情報そのものも好きらしい。興味の幅は流れてくる音楽や、どんな風に働いているのかまで結構広めだ。
なのでしっかりと詳しめにそのことを記しているものがいいのではないかと考える。

となると、よくある「働く車大集合」なものは今回は適切ではないだろう。そういうのには網羅的に清掃車も含まれてはいるが、あくまでも大勢の中の一人なので扱いは少ない。あってもちょっとしたコメントくらいだ。

あと、デフォルメされた物語絵本も先行からは外れる。
h君がみたいのはお話ではなく、あくまで清掃車全体のこと。内容によっては読めば楽しめはすると思うが、一番求めているものではないと思う。
『ごみしゅうしゅうしゃのゴンちゃん』(おおはしえみこ他/ひさかたチャイルド)『ちいさいごみしゅうしゅうしゃぱっくん』(薫くみこ他/ひさかたチャイルド)などもいい絵本だとは思うが、今回は選ばなかった。

あと、h君の求めているものからすると、イラストよりも写真のようなものがよりしっくりくるのだと推測した。
『おはよう!しゅうしゅうしゃ(日本の絵本)』(竹下文子/偕成社)も清掃車について細やかに描いているようだが、それも除外。

以上のことを考えて、私が選書したのがこの本だ。

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https://www.iwasakishoten.co.jp/book/b214088.html

『よみきかせ のりものしゃしんえほん せいそう車』
作:五味雫 写真:市瀬義雄
初版発行日:2016年1月
発行所:岩崎書店

『よみきかせ のりものしゃしんえほん せいそう車』の魅力

一目見て、内容を調べて、これだと思った!
清掃車好きによる、清掃車好きのための絵本としか言いようがない。一見すると小学生とかが調べ学習で手にする難しい情報満載の図鑑のように見えるかもしれないが、そんなことはない。
選書ポイントは下記だ。


・写真がメインで、結構細かなところまでもじっくり見ることができる。
・間に入る文章は少し長いけど、読者に話しかけるような口調で親しみやすい。読んでもらうならむしろそっちの方が楽しい。
・迷路のような楽しいコンテンツもある。
・読者レビューの中に「清掃車好きのうちの子も大満足でした」のようなコメントもちらほら見られる。

うむ、自信をもっておすすめできるであろう。

一つ難点をあげるなら、この絵本の定価が2,860円(税込)と少々お高めなこと。
内容からすると妥当な値段だとは思うし、「本好きならこれくらい!」と勢いつきたいところでもあるが、小さい子どもを持つ家庭には日々何かとお金がかかるのである。3,000円近くするものをホイホイ買うことなんてできるわけがない。
ちなみに私が選書をする上で大切にしているのは、どこで手に入れられるかまで伝えるということ。
うっかりおすすめしたものが絶版だったり、発行部数が少ない貴重品だったり、高級でとても手に入れられないのなら、例えいい絵本でも意味がないしそれはもったいないし。

そこで助かるのが、現代の知恵の宝庫である公共図書館!皆さんお住まいの自治体にもおありだろう。
今はどの図書館もネット検索で蔵書を調べられる上に、必要とあらば取り寄せも注文もできる。
https://calil.jp/local/okinawa
↑こういうサイトを活用すれば横断検索もできるので非常に便利だ。こんな便利なサービスがあるのに活用しない手はない!
さっそく教えよう…と思ったが、このSさんは普段から図書館をバリバリ活用しているヘビーユーザーで、私が教えるまもなくすぐさま検索を開始していたのだ。
流石すぎ。

検索の結果、1件だけ本書の在庫を発見したので、さっそく注文して取り寄せていた。
我が子の為にささっと行動する姿、私も見習わねばならないな。
h君、気に入ってくれるといいな。

選書の後日談

このやりとりがあって数日後、無事絵本がh君の元に届いたようだ。
果たして気に入ってくれるのかそわそわしていたが、先日嬉しい報告が届いたので紹介しよう!
※sさんの許可得て、写真と文章を掲載しています。

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こちらの想像通り、h君はこの絵本に大ハマり!
何度もなんども手に取り、読んでもらう他にも自分で手に取ってじっくり細部も楽しんでいるのだとか。夜の絵本タイムの定番になったようだ。


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迷路ゾーンも指でなぞりながら遊んでいる。
絵の部分も結構やわらかい色彩でみたいで親しみやすいなー。


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ソファに体を預けながらじっくりと眺めるh君。
写真部分も予想通り見応えがあるそうなショットが満載だ。


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sさんによると、最近は内容をすっかり覚えてしまって

「ここに、ごみがあります。くさいですね?なんのおとでしょうか?」

と言いながら代わりに読んでくれるのだとか。ここまで楽しんでくれると、選書したかいもあるというもの。
わざわざ報告してくれたsさんと楽しんでくれたh君にこちらも感謝したいと思った。


私が絵本好きなのを知って、たくさんの人がおすすめを聞いてくる。
そこで喜んでもらったことは何度もあるが、選んだ本を喜んだり楽しんだりしている姿をこうやってまじまじと見るのは、思い起こせば初めてだったかもしれない。
やったことは取るに足らないことかもしれないし、もっと知識のある人ならばさらにぴったりの選書をするかもしれないのだが、喜んでくれる姿を見るのはやはりいいものだ。素直に嬉しい。
こういう出会いを積み重ねていって、もっともっと自分の世界を広げていってくれたらと願わずにはいられない。

そんな素敵な出来事だった。

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