【ショートショート】 #26 生きてて〝えらい〟
「顔が良い、頭が良い、声が良い・・・良いの対義語ってのは悪いだよね?」
「何を言い出したんだお前は」
カリンは咥え煙草のまま私の方を見た。立ち上る煙。その煙は天井で広がっている。
「いやね、最近生きててえらいって言葉を耳にしたもんだから、その反対を探してたんだよ」
煙草を手に取って灰皿に叩く音だけが響いた。
「・・・えらく無いとか?は・・・ダメか。良いの反対は良くない。よりも良くないの反対は悪いってほうがしっくりくるもんなぁ」
「私は国語が得意じゃないからそんな決まり事とか知らないけど、それって否定ってだけで反対って意味じゃないでしょ?」
「まあ・・・確かに」
カリンはネットにアクセスして答えっぽいものを探した。
「どうやら偉いの対義語は〝つまらない〟らしいよ」
「へぇ・・・意外だねそんなんなんだ」
私は天井を見つめてぼやいた。
「つまらない人生を生きててえらいっていう事はどいう事なの?」
「そんなの私に聞くなよ。・・・それよりも仕事だ仕事」
そう言うとカリンは立てかけてあった鎌と黒いローブを渡してきた。
「今日は大きな事故が起きる予定だ。死者は・・・13名?忙しくなるな」
私達は足早に外へと出かけた。
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