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【ショートショート】 #25 すいせいマジック

 マジック、魔法のようだった。期待されていなかった過去の自分はゴミにも成れなかった。この世界でゴミになれたら楽だっただろう。それこそ普遍的な人生を歩いて行けると踏ん切りが付けるきっかけになったから。

「でも!諦めきれないのよ!」

 居酒屋の大将を相手に私は愚痴をこぼす。持っている日本酒が揺れるたびに大将は私を見て笑っていた。

「夢を追いかける若者・・・それを安全圏から眺めるのは最高だよね」

何にも忖度しない大将は私にそんな苛烈なことを言い放つ。ようするに「楽になれば?」と言っているのだろう。そんなことはわかっている。

「世の中ってのは美しい物、良い物、素晴らしい物、綺麗なモノ・・・そう言う物に憧れているんだ。そんなものが居酒屋で日本酒片手にしている人から出てくると思う?」

大将は苦笑いしていたのだけれど、ふとビールを手に取って私に言い放つ。

「俺、ビールも日本酒も飲めないんだ」

「え?そうなの?」

 そう言えば大将が酒を飲んでいた場面を見たことが無い。この居酒屋に通い始めて3年経とうとしているのにそれに気が付けなかった。

「つまり・・・君がなかなか芽生えないのはそういう事なのかもね」

「・・・人の事を見ていないってこと?」

大将は首を振ってにこやかに笑った。

「そうじゃない、君は一晩で飲まれてしまう酒になるのが怖いのさ」

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