マーケティングに使えそうな"変わり種"バイアスとその応用

損失回避、保有効果、確証バイアス、サンクコストバイアス、ハロー効果、利用可能性ヒューリスティック、代表性ヒューリスティック.....

行動経済学に関する基礎知識をある程度身につけると、このあたりのワードはもう見たくないくらい見てきていると思います。言わずと知れた名著である『ファスト&スロー』の内容をそのまま焼き増ししたような書籍もあるくらいです。

この記事では、個人的にこれまであまり見かけることのなかったバイアスたちをいくつか紹介するとともに、マーケティングでの応用について私見を述べてきます

今回は基本的にこちらの書籍を参考にしていきます。
行動科学の観点からWebサイトのデザインテクニックについてまとめられた書籍で、かなり読みやすいのでおすすめです。

ベン・フランクリン効果(Ben Franklin Effect)

アメリカ建国の父とも呼ばれるベンジャミン・フランクリンの言葉から生まれた概念で、自分に対して親切にしてくれた人は、自分に対して恩がある人よりも、また親切にしてくれるという考え方です(p.81)。彼自身が政治家としてのキャリアの中で、敵に助けを求めることで結果的に敵をうまく味方につけてきたことに由来しています。

普通に考えると自分に対して恩を持っている人の方が親切にしてくれそうですが、この考え方に基づくとそうではないようです。

この現象は認知的不協和を解消することによって生じるものです。
AさんがBさんに対して敵対心や不信感を持っていることを前提で、AさんがBさんから助けを求められてやむなく助けたとしましょう。そうすると、Bさんに対する敵対心を持っているにもかかわらずBさんを助けたという矛盾が生じます。この事態を事後的に正当化するため、「助けたということは一定の好意をBに持っている」と解釈することで好意が生まれるというわけです。

感情が行動を生むのではなく、自らの行動が、その行動と整合するような感情を生み出すという、直感に反するおもしろい考え方なのです。

参考
認知的不協和 Wikipedia
ベン・フランクリン効果:助けると好きになっちゃう現象

潜在的エゴティズム(Implicit Egotism)

人はその人自身に似ている人や物事などに引き寄せられるという原理です(p.249)。これは無意識的に生じるものであるため、自らと関係性があるものと本人が気づかないまま好意を抱くこともあります。

セントルイスにはルイという名前の人が他の地域より多く住んでいるというデータや、デニスという名前の人の方が相対的に歯科医(dentist)になっている割合が高いというデータなど、ほんまかいなと思うようなおもしろい話もあります。

このように、人は自らのアイデンティティを構成する要素と関係性のあるものに引き寄せられる特性を持っているのです。

フットインザドアテクニック(Foot-in-the-door Technique)

何かを一挙に依頼するよりも、"小さく依頼する"ことの方が効果的であり、なおかつ小さく依頼することでより大きな依頼を受け入れやすくなるという原理です(p.119)。

依頼される側としては依頼を受けてよいかどうかを判断する必要があるため、その意思決定の過程がシンプルであればあるほど承諾される可能性が高くなります。これはわりと直感的にわかることかと思います。

では「小さく依頼することでより大きな依頼を受け入れやすくなる」というのはどういうことか考えてみましょう。

人は自分の行動を"事後的に"合理化する生き物です。
本当はシステム1(直感的な思考)によって無意識的に行った行動であっても、その行動の理由を問われれば、それっぽい理由を後づけで答えてしまうのです

小さな依頼を深く考えずに承諾したとしても、最初にOKを出した(出してしまった)以上、そこに何らかの合理的理由があると信じ、それに整合するように行動しなければならないように感じるようになります。
この特性によって、小さな依頼を受けたことが次のより大きな依頼を受けやすくなるのです。

マーケティングでの応用を考える

ということで、上述の三つのバイアスをマーケティングで実際に何か応用できないか考えてみます。なお、思ったより分量が多くなったのでフットインザドアテクニックの応用は省略します。

・ベン・フランクリン効果の応用 - 離反見込層へのアンケート

元々ベンジャミン・フランクリンが「敵を味方につける」ことに由来していことを踏まえると、離反見込の顧客に対して継続的にアンケートを取ることで、貴重な顧客の声を収集しつつ、その人自身のロイヤルティを高めるという施策どうでしょう。
Smart Persuasion(今回の参考文献)でも応用例として簡単なWebアンケートを取るというアイデアがあったので、そこからの発展で考えてみました。

前提として、行動データを基にRFM分析などの分析を行っており、事前に離反見込の顧客が判定できていることとします。
離反見込ということはもうすぐ「敵(離反)」になるような顧客であり、商品・サービスに対して何らかの不満を抱えている場合が多いはずです。このような顧客に、サービスを改善したいから意見を聞かせてほしいと率直に伝えれば*1、ため込んだ不満をアンケートに書き連ねてくれるかもしれません。辛辣な内容もあるかもしれませんが、ロイヤル顧客の優しいコメントよりも、改善に役立つようなより価値ある意見が得られるはずです。

また、ベン・フランクリン効果は次の機会により手助けしてくれるという考え方なので、追加で10分以上かかるような重めのアンケート(反対に、初回アンケートは数分レベルにとどめる)にも協力してくれるはずです。

このように、通常のサービスとは異なる流れの中で顧客との関係を保ち、時にはサービス改善をアピールすれば、「自分の意見が役に立っている」という自己効力感を実感させることができ、ロイヤルティを高めることができると考えています。

*1 方法はメールでもWebサイト上で表示するでもなんでもよいと思います

・潜在的エゴティズムの応用 - 自己との関係性を意識させるレコメンデーション

潜在的エゴティズムは、自らのアイデンティティを構成する要素との関係性によって「引き寄せられる」という考え方でした。これを商品のレコメンデーションで応用できないか考えてみましょう。イメージはAmazonです。

従来は、「この商品を買った人はこんな商品も買っています」という程度のレコメンドでした。

そうではなく、「東京のママさんはこんな商品を買っています」というくらいに具体性を上げることで、意識的/無意識的に自らのアイデンティティを構成する要素との関係性をユーザーに訴求することができるはずです。この例でいえば、東京在住の子どもを持つ母親がこのレコメンドを見ることで、それらの商品の購入者や商品そのものに自分との"近さ"を感じ、購入率が上がりそうです。

これは商品のレビューでも同様のことが言えます。
専門性の高い書籍などは特に当てはまると思いますが、読み手の属性やレベルによって価値をまったく感じない、あるいは非常に価値が高く感じられるなど、評価がブレることがあるため、レビューを信用してよいか判断しかねることがあると思います。

これについても、レビュアーの属性が開示される仕組みをつくればよさそうです。たとえば私であれば、「東京で働く若手ITエンジニア」のレビューに自らとの関係性を見出すため、そのレビューはより信用でき、安心して購買に進むことができるようになります。

ユーザーに事前に自身の属性を入力していただく必要があること、自らの属性を開示することに抵抗があるユーザーが一定数いるなど、いくつか課題はありそうですが、ある程度の実現性はあると思っています。

最後に

こんなことをつぶやいてみましたが、今こうして記事を書いていくうちにまた改めて行動科学のおもしろさを感じてきました。

しかしながら、2週間に1回というのは他タスクも踏まえると中々ハードなので、今後は不定期更新にしたいと思います。自分自身が心から「おもしろい」、「書きたい」と思ったことをまとめた方が読む人にとってもおもしろいと思うので。

あと、今後はデータ分析に関する細かいTIpsや調べたことをはてブロの方に更新していこうと思っています。興味ある方はまた見てみてください。

それでは。

参考文献



この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?