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■要約≪誰のためのデザイン?後編≫


今回はD.A.ノーマン氏の「誰のためのデザイン?」を要約していきます。認知科学者によるデザイン原論をまとめた当該分野の古典的な本です。本書を起点としてプロダクトデザイン/インダストリアルデザインデザイン思考などが大きく発展したとされており、サービス・ソフトウェアプロダクト主流の21世紀のビジネス潮流を捉えるには不可欠の概念が散りばめられています。後編の今回は第五章~第七章を取り扱い、「ヒューマンエラーの構造」・「デザイン思考」・「ビジネスにおけるデザイン原理」についてまとめます。


「誰のためのデザイン?」

■ジャンル:IT・UXデザイン・心理学

■読破難易度:中(心理学・人間工学・UXデザイン/プロダクトマネジメントいずれかの知識があると非常に読みやすいです。)

■対象者:・デザイン分野の理論を体系的に学びたい方

     ・人間工学・心理学に興味関心のある方

     ・日常にある製品の仕組み・狙いに関して理解を深めたい方

※前編の要約は下記※

■要約≪誰のためのデザイン?前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)


≪参考文献≫

■UXデザインの教科書

■要約≪UXデザインの教科書 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪UXデザインの教科書 後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■UXデザインの法則

■要約≪UXデザインの法則≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■[新訳]経験経済

■要約≪[新訳]経験経済≫ - 雑感 (hatenablog.com)


【要約】

■ヒューマンエラーの構造

複雑な記憶を前提とするプロダクトデザインは失敗であり、それは道具としての効果を果たす効率が悪くまずいです。ヒューマンエラーについてはそもそもの意識や仕事を取り巻く環境の整備など個々人の努力と仕組みで「エラーが起きない」・「最大限防ぐ仕組みを構築する」の二段階が必要になります。「ある事象が起きるのはなぜか?」その因果関係のシグナルとなる行動や事実を例証するのがデザイナーにとっての重要な感覚になります。人間は創造的な生き物であり、退屈な定型業務を回避する傾向が強く、エラーは時間的なストレスがトリガーとなり引き起こされることが多いようです。

・エラーはスリップミステイクにより引き起こされ、スリップは「行為のタイミングの不備」・「記憶の不備」によるもの、ミステイクは「ルール・知識・記憶の間違いによるもの」に寄る所が大きいです。情報処理ステップのズレそもそもの認知・記憶の間違いなどによりエラーは起きて、「これが起きにくいようにタッチポイント・インターフェイスなどの導線設計をする」のはプロダクトデザインの重要アジェンダです。脳の構造的に一見関係ないものを関係があるように認知・情報処理するということが発生することはあり、それがヒューマンエラーの元の大半を占めます。

・人間は「情報処理を簡略化・効率化することで処理能力を保とう」という習性がありそれ故に、異常音を知らせるサインや動作がない限りにおいてはフィードバックは無視される・ミステイクは助長されるということが起きます。「スリップやミステイクといったエラーが検知されるようにすること」・「そもそも怒らないような仕組みづくりをすること」の2点に関与するようなプロダクトデザインを心掛けることがポイントになります。その為にはデザインプロセスにおいて対象顧客のユースケースやワークフローに対して深い解像度を持つ必要があり、継続的な顧客インタビュー・観察が欠かせないです。


■デザイン思考

本当の問題を発見することに注視するデザイナーの思考プロセスをビジネスの現場に導入して問題解決をしようというのがデザイン思考の考え方です。ビジネス上のデザインにおいては人間の願望・ニーズ・能力にあった問題を設定すること・ソリューションを開発することに最大限注視することが大切であり、それは「対象顧客への共感」・「拡散・収束過程を経て遠回りに見えるようなプロセスを踏む」といった標準的な手順を踏むことが推奨されています。

・デザイン思考の重要な道具は人間中心設計とダブルダイヤモンド発散-収束モデルの2つとされます。「観察→創出→プロトタイピング→テスト」の段階を踏み、正しい問題を解くということに拘る姿勢が大切です。デザインのダブルダイヤモンドモデルは問題の発見・解決策の発見それぞれのプロセスにおいて発散・収束を経るようにコトをマネジメントするフレームのことを指します。このモデルはプロダクトマネージャーがデザイナー・エンジニア・ステークホルダーと協業しながら納期内でプロダクトディスカバリーを行う為の不文律として活用されています。「顧客のワークフローや心情を捉える為に、観察・インタビューをしてファクトを集めながら仮説を洗い出す」というのが基本的な営みになります。

・デザインとマーケティング対象顧客のメンタルモデルを深く理解するという工程においては共通しますが、出口においてデザインは因果関係や真の関心毎・課題を理解することマーケティング効果的な販売訴求方法の設計・運用になります。具体的には顧客セグメンテーション・各セグメントを象徴する行動や定量指標の洗い出しなどがマーケティングのスコープになり、デザインは個別セグメントの行動や心理の深い理解・課題や解決策の方向性の探索などであり似て非なるものです。その為、プロダクト開発の問題発見・問題解決のステップにおいてアイデア拡散・収束フェーズはチームで行い、共感プロセスを通じてプロダクト開発チームの創造性・当事者意識を狙って高めていくマネジメント技法を取ることがプロダクト開発チームの生産性を大きく高めます。

・デザイン思考を実践する上では標準規格の構築・運用が特定のパラダイム・マーケットにおいて効果的なデザインの道標になることが多く、面倒でも構築・運用することを推奨されています。人間は持ち合わせているメンタルモデルにより、望ましいデザインは自ずと決まってきます。その為、「既存のプロダクトの基本となる骨格を最大限踏襲しながら設計する」・「直感的な導線にする」といったことを気を付けることが道具の価値伝達効率・ユーザーの楽しい体験実現というデザインの目的に即した際に重要になります。尚、この原理原則を応用して、誤作動してはまずい対象に関するデザインはわざと難しくする・使いにくくする施しをして用途や対象を限定するということもあります。


■ビジネス世界におけるデザイン

「誰がどのような文脈でプロダクトを雇用するのか」・「どのようなジョブを解決する為にプロダクトは試行されるのか」・「既存の解決策では何がダメか」という問いに対する解を中心に据えて探索・意思決定し続けるというのが良いプロダクトデザイン実現の絶対感覚となります。その上で、「直感的で楽しいワークフローになっているか」・「既存のメンタルモデルに受け入れられる導線か」などの観点を点検していくことが大切になります。

・テクノロジーは短期間に大規模に変化しますが、人間と文化は徐々に時間をかけて変更していくものです。そのリードタイム差分故に、デザインの規範は時代の変遷と共に漸進的に変化していきます。タッチパネルを用いた電子操作テレビ電話などの技術は構想から実現・浸透迄数十年かかった典型例です。

・デザインは人の認知行動に強く影響するからこそ、その道徳的影響には配慮しないといけないとされます。テクノロジーの進化と共にプロダクト開発はハードウェア中心からソフトウェア中心の時代になる中で、プロダクトそのものというよりプロダクト利用体験をデザインすることが大事になります。機能の伝達効率理解しやすさ使いやすさ楽しい利用体験などが出来て初めてプロダクトデザインは成功と呼べます。



【所感】

・前編の内容をよりビジネスの実践の場に当てはめた理論が展開されており、非常に読み応えのある内容でした。人間工学・心理学の学問的な理論・知識をベースにこれまで断片的に学んできたUXデザインのフレームや知識が一つの線に繋がっていく読書体験を経ることが出来ました。デザイン思考の標準的なプロセスや実践上の注意点などプロダクト関連職種の読み手を想定した内容になっており、骨太かつ実践的な内容でした。

「テクノロジーの進化に人間の変化適応が追い付かない」という構造は避けられず、だからこそ人間中心設計により体験価値・価値伝達効率を高めるようにして、テクノロジーを活用していくことの環境を整備していくことが大事であり、プロダクトデザイナーが共通して持つべき職業倫理となるのだなと強く実感した次第でした。労働供給制約社会が到来する未来において、人とテクノロジーがどのように共存していくかということはビジネスにおいてどの立場にいても避けて通れないテーマ感と認識しています。その為、各自が自分の持ち場でプロダクトデザインの視点を持って顧客価値向上に努めていく、その為に自ら変化・試行錯誤して学ぶというスタンスを欠かさないようにしないといけないなと再認識させられる内容でした。


以上となります!


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