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地図にはない街で

ここは一定の想いを抱える多くの人が一度は足を踏み入れる街。


地図には存在しない。


こいつはイキって一体何を言ってるのか?という突っ込みは一旦スルーさせていただきつつ、今日はそんなとある街の話をさせていただこうと思っている。お付き合いいただけたら嬉しい。


綿密な計画的のもとで訪れる人
もいれば、急に思い立って即日訪れる人もいる。ここはそんな街だ。

電車を降り、駅を出る。と、そこには射幸心を煽る広告をベタベタと車体に貼ったバスがせわしなく行き来するバスターミナルが広がる。視線をあげるとそこにもまた不安を掻き立てるかのような派手な広告や看板が所せましと並んでいる。このターミナルは、迷いなくバスに乗り込む人、バスにはのらず市街地のほうへ歩を進める人、そして・・・戸惑いうろうろする人。色々だ。

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この街に初めて足を踏み入れる人は、誰しもがまずこの情報過多ともいえる猥雑な光景に戸惑いを覚える。

どうしよう。

何かを求めて来たはずなのに、足が進まない。結局どうしたら良いのかわからずそのまま踵を返し、ここは自分の来るところではなかった、と駅のなかへ戻っていく人も少なくはない。

一方、はじめてこの街に訪れた人々の比較的多くは、バスターミナルのすぐ傍の一等地にそびえたつ大型百貨店にとりあえず入店する。
そう、とりあえず。

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この一等地には大型百貨店が3~4軒立ち並び、売上を競い合っている。

入店するとどの百貨店もまずコンシェルジュカウンターで、今日の目的や予算についてざっくりとヒアリングされ、どのフロアにいくと良いのかを示してくれる。大体の希望はかなうようなフロア構成になっているらしい。

「それでは〇階へおすすみください」

その後、指定されたフロアにつくと、そこには無数の商品が整然と並んでいる。なんとなく希望に近そうだがとにかく商品数が多い。一品一品たしかめてみるとどうも予算感も好みもズバリという訳ではなさそうだ。

ここから自分で選ぶのか・・、と途方にくれる
ことすらある。

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フロアには、相談出来そうなショップ店員が存在している。が、彼ら彼女らはつかず離れずの距離を保ち、立ち入ってはこず、何かよっぽど困ったときに声を掛けるとようやくマニュアルにのっとった型どおりのサポートをしてくれる。よく見るとフロア専任のコンサルタントという名札をつけているが、さながらヘルプデスクのような印象だ。そんなヘルプデスク的店員の決め文句はこれだ。


「お気に入りのアイテム1点と出会うためには、最低でも30アイテムは購入してみないとダメですね~」


30!? え、、そんなに??? ここからそんなに選ぶの??」


とにかくたくさん購入してみないと当たりと巡り合えませんよ。という感じだろう。初めてこの街に足を踏み入れた方が、不安のもとにバスターミナルを抜け、とりあえず一等地にある大型百貨店であれば安心だろうと入店し、「ここに行くと良いですよ」と、いざなわれたフロアでこのように言われたときのことを想像してみる。無駄が発生するのもわかりつつ、「・・そうなんですね」と言われるがままに30アイテム購入する人がいても不思議ではないかもしれない。

この街ではこれが常識ですよ(ニコリ)

と言われているようなものだからある意味仕方がない。不安という魔物はときに人の常識的な判断力を鈍らせる。ここで買い物をした人は、ほぼ予算を使い切りそのまま駅へと戻っていく。若干うつむき気味にも見える。

購入したアイテムのなかに偶然でも意中の1点が含まれていることを切に願う。

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一方、駅前の大型百貨店を数店梯子しても全くしっくりこない人々も多い。

希望が満たされる商品と出会えない、たくさんありすぎて選び方がわからない、たくさん購入して偶然のあたりを目指すような無駄はしたくたい、お勧めフロアをざっくりと教えてもらったが本当にこのフロアがお勧めなのかわからない、とにかくなんだかしっくりこないという人々は、百貨店を出た後、さらに街の奥へと歩を進めていく

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街の奥には商店街が無数に並んでいる。人情味があって色々な店が立ち並ぶ昔ながらの商店街もあれば、アクセサリー、ファッション、書籍、雑貨、食品・・といった一定の領域に特化した店だけを連ねる専門店街もある。

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商店街の特徴はわかりやすい。百貨店ほどの商品数は取り揃えていないが、その店のオーナーがこだわった商品のみを取り扱い、そしてその商品に偏愛ともいえるレベルでやたらに詳しいということだ。百貨店で扱う商品と同じものを取り扱っている店ももちろんある。ただ異なるのは、その商品の生産・製造者がどういう想いで創ったものなのか、その商品の希少性など、「ストーリー」にいたるまでとにかく詳しく知れるということだ。このストーリーは知れば知るほど、たとえ一度みたことがある商品であったとしても、自分にとっての魅力となっていくことがある。

「お客さん知ってます?これって・・・・・な商品なんですよ」

「お~、そういうストーリーのある商品なんだ。めちゃ素敵やん」

と、ストーリーは人にとって価値になる。

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商店街での買い物は、大型百貨店ほど効率化されていないため、長距離を歩き足をつかわないといけない。また、クオリティも有象無象のため本当に良いお店に出会うには時間もかかる。しかしそこには掘り出し物との出会い、そして商品のもつストーリーとの出会いの可能性がひろがっている。

一方で、誰がいつ訪ねても

「いまのお勧めはコレですよ!」

と常に自分の推しだけを勧めてくる、ときに偏愛の強すぎるオーナーや、売上げを上げることに執着しすぎるオーナーなど色々なお店があるので流されない強い意思も必要だ。しかし、ここでようやく自分自身が満たされる商品との出会いが実現でき、駅へと戻っていく人たち。その人々の顔は総じて明るい

なぜなら商店街は歩くだけで予期せぬ楽しい出会いがあり、商品に詳しいオーナーや店員さんとの会話そのものが楽しいからだ。出会いは気付きにつながり、可能性の広がりに繋がる。楽しい。



そして・・・・


この地図にない街。そんな街に、私たちは一軒のお店を構えている。

そう、ここはちょっと風変わりなBARだ。

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記事冒頭では紹介していなかったが、ここは「モヤモヤを抱えたビジネスパーソンが足を踏み入れる仮想の街」。

駅前の猥雑としたバスターミナル、一等地に立ち並ぶ立派な大型百貨店、その奥に広がる商店街と専門店街、そしてそこからさらに入り込んだ路地裏の一軒

そこが私たちのBAR。

何か商品をサッと店頭で購入することで晴れるライトなモヤモヤではなく、また専門的な商品解説を聞いて素敵だなと思っても、なんだかそれが自分にフィットしているのかしっくりこない。そんななかなか誰にも話すことが出来ない込み入ったモヤモヤをカウンター越しに時間を掛けて話し続けられる場所。固定メニューはなく、そのときどきの感情に寄り添ったカクテルやワインをもって癒しを提供する。キャリアのバーテンダーでありソムリエでもある。安心して、リラックスして話をすることで得られる心の落ち着きと未来への希望。

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「次の一歩はこうしてみるとどうでしょうね」


そして、私たちのBARが風変わりである所以、ここは話を聞くだけの場ではないところ。そう、ここにはセレクトショップを併設している。お気に入りの商品だけを取り扱うこだわりのセレクトショップだ。

カウンターでお話を聞きながら、一緒に明日の一歩の方向性を考え、最後にセレクトショップからお勧めの品をお持ち帰りいただく
専門店街で提供されるような丁寧で詳しい商品説明を貴方だけに添えて

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ここは、モヤモヤを抱えるビジネスパーソンが様々な想いと期待と共に足を踏み入れる仮想の街。私たちはこの街の路地裏でひっそりとBARを営んでいる。

キャリアのモヤモヤを解決する場所は、この街のなかには色々ある。商品の質や量、サービスの個性もバラバラでそれを訪れた人は自由に選ぶことができる。そんななかからこの場所を発見して路地裏の扉を開けてくれた方には最大限の感謝でおもてなしをしたい。そんな方々が少しでも心地よさと自分らしさを取り戻し、幸せになる商品と出会ってくれたなら本望だ。

そう願って、私たちは今日も接客技術とショップセレクションを磨きつづけていく。



~ あとがき ~

社会人になってはじめてキャリアの悩みを考えたとき「キャリア」や「転職」というキーワードでGoogle検索をして、そこに表示される大量の情報に戸惑ったこと、とりあえず有名なサイトやエージェントに登録すれば大丈夫かなと思ったけど全然大丈夫じゃなかったこと、本当にキャリアの相談ができる人はどこにいるんだろうかと困ったこと、皆さんも少なからず経験があるのではないかと思います。

本noteはそんなキャリアの悩みを解消しようともがくビジネスパーソンの様子を「街での買い物」に見立てて仕上げたフィクションです。キャリアの悩みを扱うわたし自身の仕事に対するスタンスと、このテーマを扱う業界のイメージを要所要所に若干リアリティをこめながら言語化・ビジュアル化・ストーリー化してみました。

あ!

30アイテム必ず購入するよう勧める業者さんがいたり、誰が相談に来ても自分の推しアイテムしか購入を勧めない業者さんが誰かであると明示するものではありません。あくまで例えばの話であり、フィクションです。



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