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東南アジア放浪記~羊が一匹~


安宿には世界各国のバックパッカー達が多く宿泊している。

日差しが強かったとある昼。俺は夜の街に近い場所で、安宿を見つけた。さっそく宿に入り、チェックインを済ますとスタッフの若い男が部屋まで案内してくれる。角を曲がり、部屋へ向かうと、廊下に響き渡る喘ぎ声。気付いたら俺は真顔で耳を澄ましていた。

部屋のドアが開いてるんじゃないかと思うほどの大きな音で、もはや耳を澄ますまでもない。

「うるさいだろ?まだお昼だっていうのに」スタッフの若い男がニヤケながら俺に言う。「ごゆっくり」部屋への案内を終えた男はそう言った後、去っていった。

部屋の中は決して綺麗とは言えなかった。カビの匂いこそしなかったが、汚れが目立っている。トイレの便器の中にはムカデみたいな虫が泳いでいるし、暑さの厳しい国なのにエアコンがついていなかった。

エアコンの代わりに天井に付いていたのはデカすぎるプロペラ扇風機。うずまきナルトの螺旋手裏剣くらいデカい。

そして、天井が低いため、プロペラ扇風機を回してる時にベッドの上に立ってしまったら首が飛んでしまう。そんな恐ろしい想像をしてみたりした。

決して良いとは言えないこんな宿の部屋で少し休息をとった後、俺は外へ出かけることにした。

夕食を終え、宿に戻るとまたもや聞こえる喘ぎ声。もはや皆、ラジオ感覚で聞いてるのだろうか。俺は考えた。以前とある島で泊まった安宿も壁が異常に薄く、生活音などが丸聞こえだった。そして、隣の部屋に泊まっていた欧米人カップルがデリバリーの男とかなり激しく口論をしている時があった。布団に入り、眠りにつこうと思っていた矢先に聞こえ始めた激しい口論が鬱陶しく、俺はあの時、寝るまでにどのくらいの時間を要したかよく覚えている。

そこで俺は考えた。喘ぎ声と争い声。どちらが俺にとって眠りづらいか。検証するにはいい機会だ。

そして俺は喘ぎ声が響き渡る中眠りについた。

翌朝。

検証結果はこうだ。

”喘ぎ声も争い声も羊を数えるより早く眠りにつける” 




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