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おじさんの体力は休むと落ちる?

緊急事態宣言も解除され、SNSで練習再開の様子を目にします。すばらしいですね。今回のコロナ禍で3ヶ月ほど運動ができなかったひとも多いと思います。さて、休むとおじさんの体力はどれほど落ちてしまうのでしょう

アスリートの体力は落ちる

Coyleたちは、平均して10年の経験があるランナーやサイクリストを対象に、休んでいると運動能力がどのくらい落ちるのか調べました(Coyte et al., 1984)。平均年齢29歳の若いアスリートたちです。

3ヶ月休むと心肺機能が衰えます。最大酸素摂取量(VO2max)はおよそ15%低下しました。最大酸素摂取量は「息切れの感じやすさ」に対応します。低下すると長く運動ができなくなるわけですね。

一方、ウエートトレーニング器具で計測される筋力は、ほとんど低下しないことがわかりました(ベンチプレスなど)。ただし、これは持久力が重視され、筋力がさほど重視されないランナーやサイクリストの話です。

筋力が必要な競技ではどうでしょうか?水泳選手から興味深いデータが得られています(Neufer et al., 1987)。水泳選手を軽めの練習(週1回)をするグループと全く練習をしないグループに分け、1ヶ月後に測定したところ、マシンで測定する筋力は、どちらのグループもほとんど変化しませんでした。しかし、体に紐をつけ、水中での泳力を測定したところ、全く練習していないグループでは14%ほどの低下が見られました。軽めの練習をしているとこの低下はありませんでした。また、血中の乳酸が全く練習をしていないグループでは、軽く練習したグループより増加しました。乳酸は筋肉の疲労に関わるものなので、疲れやすくなることがうかがえます。

この結果は、全く練習をしないでも、筋力そのものはそれほど衰えないものの、競技に必要となる力は衰えてしまうこと、また、疲れやすくなることを示しています。一方、軽めの練習でも、運動能力はそれなりにキープできることが示されました。

おじさんは?

さて、おじさんの場合はどうでしょうか?そもそも若いアスリートとでは、鍛え方も体の回復具合も違います。

Volaklisたちは、循環器系の病気(例えば、心筋梗塞)から回復した患者を対象に、8ヶ月の有酸素運動と筋力トレーニングを行い、さらに3ヶ月中断の効果を調べました(Volaklis et al., 2006)。対象者の平均年齢は56歳、平均体重は80 kgです。アメリカの平均身長(男性177 cm)を考えると、日本での普通体型と変わらないと考えてよいと思います。8ヶ月しっかりトレーニングして、3ヶ月休んだ状況は、まさにコロナ禍の柔術おじさんにそっくりだと私は思いました。

下の図に示したように、8ヶ月トレーニングを続けるとおじさんの体力は伸びます。心肺機能を示す最大酸素摂取量でおよそ15%、筋力でおよそ30%増加します。筋力はいくつかの種目の平均です。ちなみにベンチプレスは、およそ50%増加するそうです。50 kgが75 kgになる計算ですから、なかなかですね。

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一方、3ヶ月休むとどちらも10%ほど低下してしまいます。ただし、上の図のオレンジの棒からもわかるように、トレーニングの効果が完全に消えるわけではありません(青とオレンジの棒を足してもゼロにはなりません)。また、筋力は比較的落ちにくいです。これはアスリートと同様です。

練習再開に向けて気をつけること

おじさんが休んでしまうと、アスリートより運動能力が低下するようです。また、アスリートにしろ、おじさんにしろ、心肺機能の低下がはっきりと起こります。ただしゼロにはなりませんし、軽めの運動でもキープできるようです。

多少は低下することを考えると、運動再開にあたって、運動強度を下げる方が無難でしょう。ウエートトレーニングや有酸素運動では、怪我など長期のインターバルのがある場合、強度を1/2から1/3に下げることが推奨されています。柔術でも、いきなりスパーリングをフルパワーでせず、徐々に慣らしていくと良いのではないでしょうか?

60代以上の高齢者でも、1–3ヶ月のトレーニングで筋力や心肺機能が大きく向上することが知られています(Frontera et al., 1988)。ですから、おじさんも1-2ヶ月かけてゆっくり戻していくと安心です。

私自身、頚椎ヘルニアや膝の半月板損傷で2–3ヶ月練習できなかったことがあります。再開後、1–2ヶ月でだいたい元に戻りました(故障箇所は完全には元に戻りませんが)。一方で、ひさしぶりに練習に復帰したひとが、復帰早々怪我をするのも何回か目にしています。そういう経験から、少しずつ強度を上げる方が良いと思っています。

おじさんに怪我は大敵なので、どうぞご無理のないように。

引用文献

・Coyle, E. F., Martin 3rd, W. H., Sinacore, D. R., Joyner, M. J., Hagberg, J. M., & Holloszy, J. O. (1984). Time course of loss of adaptations after stopping prolonged intense endurance training. Journal of Applied Physiology, 57(6), 1857–1864.
・Frontera, W. R., Meredith, C. N., O'reilly, K. P., Knuttgen, H. G. and Evans, W. J. (1988). Strength conditioning in older men: skeletal muscle hypertrophy and improved function. Journal of Applied Physiology, 64, 1038-1044.
・Neufer, P. D., Costill, D. L., Fielding, R. A., Flynn, M. G., & Kirwan, J. P. (1987). Effect of reduced training on muscular strength and endurance in competitive swimmers. Medicine and science in sports and exercise, 19(5), 486–490.
・Volaklis, K. A., Douda, H. T., Kokkinos, P. F., & Tokmakidis, S. P. (2006). Physiological alterations to detraining following prolonged combined strength and aerobic training in cardiac patients. European Journal of Cardiovascular Prevention & Rehabilitation, 13(3), 375-380.

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