意志が強いから続くのか、続けると意志が強くなるのか:運動の習慣と意志の関係

運動を習慣にして続けるのは大変です。実際、フィットネスジムに通い続けられる人はごくわずかで、1年続く人が5%足らずという海外のデータもあります。ブラジリアン柔術の道場でも初心者の9割が辞めると言われます。

続けるのは才能?

「続けるのは才能」という言葉があります。これが正しいなら、続けられる人には何か特別な能力があり、その能力がないと続かないのかもしれません。果たしてそうなのでしょうか?

精神的な面から考えると、続けるためには意志の強さが重要です。実際、意志が強い人が運動を続けられることを示した研究があります(例えば、Martin Ginis & Bray, 2010)。ただし、この研究の解釈は気をつけなくてはいけません。意志の強い人が運動を継続できたとしても、もともと意志が強い人が継続できているのかもしれないし、運動を続けた結果として意志が強くなったかもしれないのです。意志の力は、筋肉のように鍛えれば強くなるものなので (Muraven & Baumeister, 2000)、意志が強いからなのか、結果として強くなったか単純にはわかりません。

Koppらの研究

Koppらは、フィットネスジムで運動を続けるために、意志がどのように関わるか検討しました(Kopp et al., 2020)。具体的には、フィットネスクラブに入会する前と入会15週後の意志の強さを測定し、もともと意志が強い人が運動を継続するのか、それとも運動によって意志が強くなるのかを調べたのです。意志の強さは、意志要素尺度を使って測定しました(注1)。

196人の男女を対象に、フィットネスクラブに入会してから、どのくらい通っているかをエントリーキーの記録で確認をしました。平均すると入会当初は週2回通っていたのが、15週には1.3回くらいに減っていました。その中にはコンスタントに続けているひとも、1週間でやめてしまった人もいました。

運動で意志が強くなる、意志が強いから運動を続けるのではない

この研究における最大の発見は、フィットネスクラブに入会して15週経つと、参加者の意志が平均的に強くなっていたことでした。特に、自己制御と呼ばれる感情をコントロールしたり、物事のポジティブな面を見たりする能力が、15週間の運動によって上昇しました。

ただし、意志力の上昇に運動の継続そのものによる組織的な差はありませんでした。少しの差はあったのですが、15週続けた人と途中で辞めた人の間で統計的に意味のある差はありませんでした。

さらに入会前の意志の強さと運動の継続の関係を調べてみたのですが、ほとんど関係はありませんでした。つまり元々の意志の強さで運動が継続できるかは予測できないということです。運動によって意志が強くなるという結果と合わせて考えると、意志が強いから運動が続けられるのではなく、運動をするから意志が強くなるのだとわかります

では、なんで続けられないのか?

運動を続けられた人とそうでない人を比べると、日常生活で感じているストレスに違いがありました。Kopp たちは、続けられなかった人たちには仕事が忙しかったり、人間関係に悩んだりなどのストレスがあり運動をするのが二の次になってしまったのではないかと推察しました。

Koppらの結果をまとめると、
(1)運動によって意志が強くなる
(2)元々の意志の強さは運動の継続と関係がない
(3)運動を続けられない人にはストレスが多い。忙しかったり、トラブルがあったりすると推察される。

となります。これらの結果は、続けるのは才能という考え方と全く一致しません。むしろ続けるためには状況が重要であることを示しています。

運動をしたいという意志があっても、状況が整わないとなかなか続けるのは難しい。運動のような新しい活動をはじめ継続するには、仕事にしろ、家庭にしろ、人間関係にしろ、スケジュールが立て込まないように、また、ストレスが減るようにある程度整理しておくのことが必要なのかもしれません。別の言い方をすると、状況が整えば運動を続けることが多くの人に可能です。持って生まれた才能ではないのですから。

引用文献

・Kopp, P. M., Senner, V., & Gröpel, P. (2020). Regular exercise participation and volitional competencies. Sport, Exercise, and Performance Psychology, 9(2), 232–243.
・Martin Ginis, K. A., & Bray, S. R. (2010). Application of the limited strength model of self-regulation to understanding exercise effort, planning and adherence. Psychology and Health, 25(10), 1147-1160.
・Muraven, M., & Baumeister, R. F. (2000). Self-regulation and depletion of limited resources: Does self-control resemble a muscle? Psychological bulletin, 126(2), 247–259.

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注1:意志要素尺度では、「やるべきことが決まったら、すぐにそれを始める」といった質問に「まるで当てはまらない」から「とてもよく当てはまる」までの4段階で回答し、意志の強さを測定します。

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