音楽の効果とスポーツの種類:音楽を聴くとパフォーマンスが上がる(2)

前回は事前に音楽を聴くとパフォーマンスを上げられることを紹介しました。今回は、パフォーマンス中に聴く音楽の効果について、少し違う視点から紹介します。

スポーツの分類

スポーツに必要な技術をオープン・スキルクローズド・スキルに分類することがあります。オープンスキルは変化し、予測しにくい状況に対応が必要な技術です。一方、クローズド・スキルは変化がなく、予測できる状況で用いられる技術です。

オープン・スキルが求められる典型的なスポーツとしては、サッカーやバスケットボール、逆にクローズ・ドスキルが求められる典型的なスポーツには体操があります。また、スポーツはルールによって個人競技と団体競技に分かれます。これらを組みあわせてスポーツを分類すると下の図になります。

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なお、オープン・スキルとクローズド・スキルは全く別のものではなく、連続したもの両極と考えることができます。また、実際のスポーツ場面では、たいていどちらも求められます。サッカーは、対戦相手がおり、局面が絶えず変化します。ですからサッカーにはオープン・スキルが不可欠です。しかし、サッカーでもドリブルやリフティングなどの個人技術がクローズド・スキルとしても必要です。体操のような典型的なクローズド・スキルが求められる競技でもオープン・スキルが必要になります。例えば、試合の状況によって、緊張状態をコントロールしたり、技のチョイスを変更したりすることがあります。体育館の天井の高さなども競技には影響するようです。

クローズドスキルと音楽

クローズド・スキルが重視されるスポーツでは、音楽を聴きながら競技を行うとパフォーマンが向上します。SimpsonとKarageorghis は、400 m走のタイムが音楽を聴くことで縮むか検討しました(Simpson & Karageorghis, 2006)。彼らは、音楽の持つタイミングの効果に注目し、選手の走るペースに合うよう、音楽の速さを調整しました。そして、気分が上がる音楽、退屈な音楽、音楽なしの3条件で400m走のタイムを比較しました。測定に先立ち、研究に参加する選手が事前に走った400m走の動画を解析し、それぞれの選手のペースに音楽の速さを調整しました。ここにものすごく手間がかかっています。20人の大学生の選手に3つの条件で走ってもらったところ、音楽の種類にかかわらず、音楽なしの時よりも1秒ほどタイムが縮まりました。400mは短距離走に分類されます。選手レベルで1秒縮まるのは相当な向上です。また、音楽の種類にかかわらずパフォーマンスが向上したことは、音楽によって変化する気分ではなく、タイミングがポジティブな作用を持っていることを示しています

前回のnoteで書いたように、気分を上げる音楽はモチベーションを上げる効果があります。今回の実験では、それとは別に、競技中に聴く音楽にはタイミングを調整する効果があることがわかりました。体操のように典型的なクローズド・スキルが必要な競技でも、競技中に音楽を聴くとパフォーマンスの向上が見られます(Chiat & Ying, 2012)。このタイミングの効果は、繰り返しが多く、リズムやタイミングが重要なクローズドスキルを重視するスポーツ全般にポジティブな作用があることがわかっています(Karageorghis et al., 2010)。また、スポーツだけでなく、ジョギング、サイクリングなどのエクササイズにも効果的です。

柔術に関連づけると…

ブラジリアン柔術は対人競技です。典型的なオープン・スキルを重視するスポーツです。一方で、テクニック(技)は複雑で反復練習を通じ身につける必要があります。テクニックの習得には、クローズド・スキルが重視されます。テクニック、つまり、技はリズミカルかつスムーズに体を使う必要があるので、音楽をうまく使うことでパフォーマンスを高めることができるかもしれません。前回に紹介した気分を高める効果と合わせて使うとさらに効果的でしょう。

ただし、オープンスキルの観点から、音楽については気をつけなくてはならないことがあります。長くなったので改めて別のnoteで紹介しましょう。

引用文献

Chiat, L. F., & Ying, L. F. (2012). Importance of music learning and musicality in rhythmic gymnastics. Procedia-Social and Behavioral Sciences, 46, 3202-3208.

Karageorghis,C. I., Priest, D.L., Williams, L.S., Hirani, R.M., Lannon, K.M., and Bates, B.J. (2010). Ergogenic and psychological effects of synchronous music during circuit-type exercise. Psychology of Sport and Exercise, 11, 551-559.

Simpson, S. D., & Karageorghis, C. I. (2006). The effects of synchronous music on 400-m sprint performance. Journal of sports sciences, 24(10), 1095-1102.

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