見出し画像

柔術を長く続けるほど遅くなる

白帯や青帯の人が、上級者とスパーをすると動きが速すぎて対応できないとしばしば思うようです。しかし、データはその印象に反しています。

長く続けると体型が良くなる

Almeidaたちは、ブラジリアン柔術のトレーニング歴、つまり、どれだけ長く続けているかが、体型や体力にどのように影響を与えるかを調べました(Almeida et al., 2023)。体型については割と単純でした。平均的には、長く続けるほど体脂肪が減り、筋肉が増えました。

長く続けると遅くなる

さらにAlmeidaたちは、柔術のトレーニング歴が、胸、背中、腰回りの筋力とスピードとどのように関連するか調べました。胸の筋力はベンチプレス、背中の筋力はローイング、腰回りの筋力はヒップ・スラストで調べました。ベンチプレスは押す力、ローイングは引く力、ヒップ・スラストは腰を押し出す力におよそ対応します。ヒップ・スラストにあまり馴染みがないのかもしれないので動画を紹介しておきましょう。美尻効果があるので女性にも人気の種目です。


Almeidaたちの研究で興味深い点は、挙げられる重さだけでなく、あげるスピードを測定したことでした。なお、挙げられる重さには、柔術のトレーニング歴によって差はありませんでした。長く続けたからといって、力が強くなるわけではないようです。

興味深いことに、経験が長いほどスピードは遅くなりました。全ての種目でその傾向が見られ、特にヒップ・スラストで顕著になり、トレーニング歴と速度には負の相関がありました(ケンドールの順位相関係数 τ = -.46)。この効果はなかなか大きなものでした。

なぜ長く続けるほど遅くなるのか

この結果はAlmeidaたちにも予想外だったようです。それでも彼らは主に2つの原因があると推測しました。1つ目は、経験を積むほど力ではなく、テクニックで対応するため、速く激しい動作が不要になると考えました。普段から速く動いていないと、だんだん遅くなっても不思議ではありません。もう一つは、寝技の特性上、床との摩擦が多くいため、速く動くことがそもそも難しいという推測です。力自体は必要なのですが、寝ていては速く動くことができない。そのため、速さは強化されないと考えたのです。これらの推測は今後さらなる検証が必要です。ただ、経験的には腑に落ちるように思います。

最初に白帯や青帯の人が上級者は速く動くと感ずると書きました。ただ、Almeidaらの研究結果から見てもそれは正しくありません。動画で確認すると実際はゆっくり動いていることがほとんどのはずです。

速く感じるのは、上級者が相手の動きを的確に予測して先回りして動いていたり、自分の思うように相手を誘い込んだりしているためだと思われます。つまり、知識や技術によって、速く動いているように錯覚させているのでしょう。

あと、速く動くと危ないです。怪我も多くなるので、練習でスピードを競ってもあんまり良いことはないです。そういうこともあり、スピードを強化しなくなるのかもしれません。

引用文献

・Almeda, C. G., Mangine, G. T., Green, Z. H., Feito, Y., & French, D. N. (2023). Experience, Training Preferences, and Fighting Style Are Differentially Related to Measures of Body Composition, Strength, and Power in Male Brazilian Jiu Jitsu Athletes—A Pilot Study. Sports, 11(1), 13.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?