じゃれあってゴロゴロすると脳で何か出るらしい:柔術が楽しい生物学的理由(3)
大賀先生が言う柔術最大の魅力「人とじゃれあってゴロゴロするのがとにかく心地よくて気持ちいい」を生物的に考える3回目です。
取っ組み合い遊びは楽しい
Pankseppは、取っ組み合い遊びが、笑い、喜びといったポジティブな感情の起源と考えています(Panksepp, 2005)。別の記事でも書きましたが、あらゆる動物は戯れあって遊び、それによってポジティブな感情を表出します。楽しそうにするんですね。しかも、攻めるときだけでなく、逃げるときにも楽しそうにします。追いかけっこで逃げるとき、子供はすごく楽しそうですよね。これが一つのポイントです。勝利や他者への優越という達成感や関係性から得られる喜びではなく、取っ組み合う行為そのものが楽しいからこそ逃げるときも楽しくて仕方ないのです。
脳でなんか出る
取っ組み合いはそれ自体楽しい。これを説明する脳の働きがあります。Pankseppは、ラットが背中に乗ったり、組み伏せたりして、取っ組み合い遊びをすると脳内にオピオイドという化学物質が分泌されることを明らかにしました(Panksepp et al., 1985)。オピオイドは、報酬や快楽をもたらす、いわゆる脳内麻薬でモルヒネと同じ作用があります。最近ではオピオイドと同じ機能を持つモルヒネを投与すると取っ組み合い遊びが増え、逆に、脳内のオピオイド受容体の機能を止める(オピオイドの快楽が生じにくくなる)と取っ組み合い遊びに参加しなくなることがわかっています(レビューとして、Depue & Morrone-Strupinsky, 2005)。つまり、ラットが取っ組み合い遊びをすると、モルヒネを投与されたような快楽や興奮を覚えると考えられます。
抑え込まれると笑う
で、どんなときに脳内麻薬が出ているかというと以下の図のように抑えつけられているときも出ているですね。下にいるラットでも出ているわけです。いわゆる、バックポジションとか、サイドポジションを「取られている」ラットでも脳内麻薬が出ているのです。
ひるがえって人間の取っ組み合いを考えます。ブラジリアン柔術のスパーリングでは上のラットのようの状態に良くなります。重いし、息苦しい。肉体的にはツラい。それでもやっぱり楽しい。「そんなわけあるか」と経験のない方は思うかもしれません。でも、ラットのように人間でも脳内麻薬が出ているのなら、楽しいのも納得です。
柔術でじゃれあってゴロゴロするのが無茶苦茶に楽しいことは、その様子を見てみればわかります。興味がある方はお近くの道場をぜひ覗いてみてください。SNSなどで検索してもたくさんの笑顔が見つかると思います。
引用文献
・Depue, R.A., & Morrone-Strupinsky, J.V., 2005. A neurobehavioral model of affiliative bonding: implications for conceptualizing a human trait of affiliation. Behavioral Brain Science. 28 (3), 313–350.
・Panksepp, J. (2005). Beyond a joke: From animal laughter to human joy? Science, 308, 62–63.
・Panksepp, J., Jalowiec, J., DeEskinazi, F. G., & Bishop, P. (1985). Opiates and play dominance in juvenile rats. Behavioral Neuroscience, 99(3), 441–453.
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