チャンピオンの性格:格闘技の王者とBig 5性格特性
その世界で一流の人は人格も素晴らしい(ことが多い)です。UFCに出ていた選手が、クロストレーニングとして私が所属する道場に来ていたとき、その立ち振る舞いや言葉のひとつひとつに感銘を受けたものでした。また、私はレスリングのオリンピック金メダリストと職場で接する機会があるのですが、彼もまた明朗で周囲を幸せにする素晴らしい人物です。今回は、そういう印象がデータから裏付けられるか調べた研究を紹介します。
Big 5性格特性
性格を記述する方法はさまざまあります。心理学で最もよく使われるのがBig 5性格特性です。これは性格を5つの要素から記述するものです。つまり性格を
(1)外向性(外の世界への関心の高さ)
(2)神経症傾向(感情の不安定さ)
(3)開放性(新しいものへの関心、好奇心)
(4)協調性(周囲への配慮、思いやり)
(5)勤勉性(まじめさ)
の5つの次元からおおむね記述できると考えます。性格が明るいとか、暗いとか良く言ったりしますが、それは性格の一面です。この5つがあれば、およそ包括的に性格を捉えられるとBig 5理論では考えています。
チャンピオンと一般選手の比較
PiepioraとWitkowskiは、360人を対象にBig 5性格特性を調べました。対象者は、プロフェッショナルとして活動する格闘家と格闘技のトレーニングしている体育大学の学生でした。対象となった格闘技は幅広く、柔道、空手、テコンドー、ボクシング、キックボクシング、レスリング、ブラジリアン柔術、そして、総合格闘技でした。360人のうち、45人が世界選手権、ヨーロッパ選手権など重要大会のチャンピオンでした。
360人全員にNEO-FFIというBig 5性格特性を調べる検査を受けてもらい、その結果をチャンピオンとそれ以外の一般選手と比較しました。その結果が下の図です。
大きな差があったのは、神経質傾向で、チャンピオンは一般選手よりかなり低くなっていました。一般選手でも、平均的な大学生より低いので、これはなかなかのものです。また、それ以外の特性では、差こそ大きくはありませんが、すべてチャンピオンが、一般選手を上回っていました。
平たく言い換えると、チャンピオンは、一般選手に比べ、感情が安定していて(神経質傾向が低く)、外界への関心が高く(外向性が高く)、新しいものへの関心や好奇心があり(開放性が高く)、周囲への配慮、思いやりがあり(協調性が高く)、まじめ(勤勉性が高い)ということになります。良いことずくめですね。
競技別では?
なお、競技別で比較をしたところ、おおむね1つの競技を除き、どの競技のチャンピオンも似たような結果でした。さて、そのその一つの競技とはなんでしょうか?実はブラジリアン柔術のチャンピオンだけが、他の格闘技のチャンピオンと違っていたのです。ブラジリアン柔術のチャンピオンは、他のチャンピオンたちよりも、むしろ、一般選手に近い結果を示しました(わかりやすく言うと他競技のチャンピオンより悪い結果でした)。協調性に至っては、一般選手よりもだいぶ低くなっていました。
なぜこのような結果になったのか論文の著者であるPiepioraとWitkowskiは考察していません。ですから推測するしかないのですが、おそらく各競技せいぜい4、5人のチャンピオンから競技別の値を出しているので、個人差が大きく影響し、競技を代表するものにならなかったのかもしれません。また、ブラジリアン柔術は、他の競技に比べ、体重や習熟度によって競技カテゴリーがかなり細かく分かれています。大きな大会だとチャンピオンだけで500人近くになることもあります。これ自体は気軽に競技に参加しやすいという良い面でもあるのですが、他の競技と比べる場合、チャンピオンのレベルがより一般選手に近くなりがちなのかもしれません。なお、これは推測ですし、ブラジリアン柔術をやっている私の贔屓目もあるかもしれません。
とはいえ、一般的には格闘技のチャンピオンはすばらしい人格を備えていることがデータとしては裏付けられていると言って良いのではないでしょうか。
引用文献
Piepiora, P.., & Witkowski, K. (2020). Personality profile of combat sports champions against neo-gladiators. Archives of Budo, 16, 281–293.
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