ストーリーテリングのレシピ。
一枚の絵、一枚の写真、一曲の歌。
「創作物」はもちろん、それ単体で力を持つ。力を持たなければならない。
しかし、その作品にまつわる「ストーリー」も含めて受け取ると、そのチカラはよりパワフルに増幅される。そして、手に取りたいと思えてくる。
90年代、大ヒット曲は軒並みトレンディドラマとのタイアップソングであった。歌を聴くとそのドラマのストーリーがセットで浮かんでくるため、より強く心を掴む効果があるからである。
今、個人がSNSを通じて自分の作品(時には自分そのもの)を発信して、チャンスを広げていく時代になった。コロナ禍によってリアルのイベントやミートアップの機会が制限される現状ではなおさらである。
今回は、ブランディングをちょっとばかりかじっている筆者が、「ストーリーテリングのキホンのレシピ」をご説明したいと思う。自らの創作物の価値を、正当に、そして効果的に多くの人に理解してもらいたいと思う人のお役に立てたら幸いである。
「ブランディング」とは?
ブランディングとは、一言でいうと「自分のありたい姿」と「世の中から思われたい姿」が一致することである。
自分が自負しているように、世の中からも思ってもらえる。それが、ブランディングの目的である。だからこそ、長くいい関係をつくっていくことができる。
独りよがりになってはいけない。しかし、世の中の流れに合わせるだけでもいけない。「自分のアイデンティティ」と「時代の流れ」の接点を見極めて、自らの価値を語ることが必要だ。そして、それこそが「ストーリーテリング」である。
ストーリーテリングのレシピ①:3つの自己視点
つまり、ストーリーテリングとは、自己視点と他者視点の融合によって生み出される。まずは、自分を掘り下げる3つの視点について解説したい。
①「なぜ」やるのか(WHY)
自らを突き動かす根源的な衝動(音楽の世界では「初期衝動」という言葉もある)、原体験など。それによって芽生えた使命感。時にはリベンジの感情。自らの価値を相手に伝える「熱源」となるもっとも根源的な要素が「WHY」、つまり「自分はなぜこれを創ったのか」という根っこの主張である。
②「何を」やるのか(WHAT)
そして、上記の根源的な衝動を叶えるために選んだ手法が「WHAT」である。なぜ、絵なのか。なぜ、歌なのか。なぜ、小説なのか。あなたはなぜ、その「舞台」を選んだのか。「そのカテゴリーだけが持ちうる力」を、あなたはキチンと説明できなければいけない。
③「どのように」やるのか(HOW)
画家はごまんといる。歌手もごまんといる。小説家もごまんといる。そのような中で、あなたの独自性は何なのか。他にない、あなただけのスタイルやアプローチ、それを選んだ理由が、人の目を惹くフックとなる。
まず、自分の「WHY」「WHAT」「HOW」を洗い出しながら、この3つが「矛盾なく、一直線になっているか」を内省するところからストーリーテリングは始まる。うまくストーリーとして流れていないようであれば、納得のいくまで自分を掘り下げ、再編集することをお勧めする。
ストーリーテリングのレシピ②:2つの他者視点
自分を掘り下げた後は、それをどのように時代の流れと寄り添わせるかである。それには、以下の2つの視点が必要である。
①「歴史的に」どのような価値があるのか
自分が選んだカテゴリーの歴史についてきちんと調べる必要がある。自分の作品の原点はどこにあるのか、どのような歴史的な変遷をたどっているのかを踏まえながら、「今この時代に自分の作品はどのような新しさを持つのか」を語れなければならない。そして、その新しさのインスピレーションはどのように得たのかを語れなければならない。
②「同時代的に」どのような価値があるのか
同じ時代を生きる「同業者」のアウトプットもしっかり踏まえておく必要がある。その上で自分の強み、弱みを客観的に認識して、戦略的にポジショニングをする。ポジショニングをするとは、「自分を支持してくれる人たち」を見極めつつ、自分のいるカテゴリーの中で「強みが最大化し、弱みが最小化する居場所」を探すことである。
歴史や時代の大きな海の中で、自分はどこにいるのか。その正確なコンパスをもとに、最も受け入れられる自分のストーリーを編み出していく必要がある。
どのようにストーリーを「紡ぐ」かは自分次第
このように説明すると湧き上がってくる疑問は、「では、この5つの要素をどのように並べればストーリーになるのか」ということであろう。
しかし残念ながら、そこに明確な法則はない。
かつて「スキゾとパラノ」という言葉があったように、自己を押し出すことを優先するか、時代の流れに合わせることを優先するか、その「塩梅」も時代によってトレンドがあるし、人によっても違う。5つのレシピのどこに、もっとも際立つ自分の特徴があるかも、人それぞれである。どこにもっとも人目を惹くエピソードがあるのか、自分の思い入れがあるのか、独自性があるのか…難しいが、そこにストーリーテリングの面白さがある。
言葉にならない「感性の泉」の奥底にダイブして、世の中に受け入れられる形でその輪郭を描き切ること。私はこれまで企業を相手にブランディングをしてきたが、その考え方は個人にも適用できるし、ビジネスの世界だけでなく、アートの世界にも応用できる考え方なのだと、思いを新たにしている今日この頃である。
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