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黄金を抱いて飛べ

本書は突然の逮捕から留置されていた時に官本として読んで本である。こんな本もあるのかと思った次第。

内容は銀行本店の地下深く眠る6トンの金塊を奪取する計画を大阪の街でしたたかに生きる6人の男たちが企てた大胆不敵な金塊強奪計画。ハイテクを駆使した鉄壁の防御システムを突破するために変電所を爆破したりと、随所にドラマが用意されている。

やたら人が死ぬのも特徴的。やっぱり、これは主人公が犯罪者側だったからハードな描写になるんだろうな。

愛のカタチも特徴的。でも私はわからないでもない。モモと幸田は、与え、贖い合う愛の形である。モモのほうが母性をもっている感じでモモには幸田を包むような大きな愛なのではないか?「許す」ではなく「赦す」ように愛した。

しかし、本作品は愛のドラマではない。計画のためというよりは、モモのために人を殺し、モモは幸田に贖いきれない罪を背負わせた。モモは弱い人間なのだろう。そして脆く、純粋な男なのだ。

幸田はモモが死んだときも、自分が望んだ「人のいない場所」へ向かったモモを前にして、惜しむでもなく羨むでもなく、ましてや悲しむでもなく「すぐに立ち去らねば」と思う。「ここは自分のいる場所ではない」と。

以前の幸田ならこうは思わなかっただろう。だったら変わる前の幸田はどう思うだろうかと考えてもそれはわからないけど、でもこのシーンで確かに幸田が変わったということはわかるのだ。

モモの死を前に立ち去らねばと思う幸田は自分が何者であるのかはっきりと自覚して死と生の間を彷徨い、限りなく死に近いところで生きてきた幸田が生へ向かって歩きだしたのだ。

本作の著者「髙村薫」さんはこれがデビュー作というのも驚かされる。日本推理サスペンス大賞受賞も納得の名作だ。映像よりも圧倒的な迫力と正確無比なディテイルを小説で表現しているあたりが圧巻である。

と、思ったら映画もあるんだね! ちょっと見てみようかなぁ♪

作品自体が映画向きだもんね。映像のほうをみたら改めてご紹介させていただきたいと思う。


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