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【イギリスの学校農園で暮らす】 土地と工芸の結びつき

noteではヨーロッパを周って見たことを主にまとめていますが、現在、イギリスの特別支援学校の中のファームのスタッフとして働いています。バイオダイナミック農法を学ぶapprentice(実習生)という立場として働いているので、日々の農園での実作業のほか、バイオダイナミック農法の基本的知識や考え方、治療救育等に関して定期的な座学やまとまった研修を受けています。(今いる環境に関して詳しくはこちら。)今年の8月までここで生活する予定で、これからまた考えや気づく事が更新されていくと思いますが、今現時点での学びの記録として、今回は「土地と工芸の結びつき」という視点で書こうと思います。

「工芸」というと、陶芸やガラス工芸、染織、木工、革細工など色々ありますが、どれも自然から取れる材料を人の技術を使い発展して来ました。芸術性が高いものも沢山ありますが、基本として工芸品とはあくまでも実用性を大事にしています。つまり生活の中で使い、人の暮らしを支え豊かにするものです。つまり言い換えると「人間の文化の発展」と密接に結びついているものです。(工芸の色々な捉え方はあると思いますが、今回の記事ではこの視点中心で書きます。)
つまり、「土地と工芸の結びつき」とは、言い換えれば「土地と人間の文化の関係性」ということです。


まず初めに、世界を作る構成要素としては、4 kingdoms、すなわち「mineral(鉱物)」「plant(植物)」「animal(動物)」「human(人間)」という4つに分けられます。それらがどう関係し影響するのか、とても簡単に言うと、以下の通り。

地質によりそこに育つ植生が変わる

植生によってそこに生きる動物が変わる

動物とどう共存するかにより人間の生活様式が変わる

人間の生活様式が決まると更に文化が発展する

つまり家畜文化なのか狩猟文化なのか稲作定住型なのかなどは、ルーツをたどるとほぼ地質に影響を受けている。もちろんそれ以外の要因の時もありますが。そして、大枠の生活スタイルが形成されると、そこで更に生活を向上させようと文化が発展する。その一つを担うのが工芸である。昔は、今のように流通が発達していなかったので、手に入る材料は、生活圏から手に入れるしかなかった。なので、その土地で取れる材料を生かし工芸は発展して来た。

このように説明すると、工芸と土地が結びついているのは納得すると思います。ただ、現代社会では発達した流通やインターネットのおかげで、場所関係なくなんでも手に入れることができるので、そのことにより「モノと土地の繋がり」に対して、人の意識が希薄になって来ていると思います。私自身、芸大を卒業してデザイナーとして働いていたので、生活の中で工芸や芸術というものを身近なものとして捉えている方だと思います。けれど、そんな私でも「工芸」というキーワードを考えた時に、芸術と比べると工芸の方が職人的で伝統技術を受け継ぎながら新たに引き継いでいくものという認識くらいで捉えていました。「工芸」も「アート」も「デザイン」もそれを行う人の視点や考え方により違いが出るのであってジャンルの境界は曖昧だし、「土地との繋がり」は意識していませんでした。なので、今回の学びの中で、土地に強い繋がりがあるという「工芸」の性格を再確認したことは大きかったです。


これだけを簡潔にまとめるとすぐに終わってしましますが、実際に理解を深めるために色々なアプローチで学びました。具体的には次の4つです。

○今いる場所の工芸と土地の繋がりを具体的に調べる
私が今働いている学校はイギリスのStourbridgeという地区で、ガラス工芸が盛んです。なぜガラス工芸が栄えたのかを、土質や歴史から調べました。結果を簡単にまとめると、ガラスを形成するのに必要なシリカや石灰が取れる土質だったこと、ガラスを製造するための火を燃やす石炭が豊富に取れ、運河も発達していたということでした。

○実際にその土地の工芸を体験する。
ガラス製品の制作を体験させてもらいました。

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(↑先生に垂直にと指摘を受ける 記事トップ写真の3種類制作しました)

○土質を理解する

土がどういう鉱物で構成されているのか、その鉱物が植物に与える影響を勉強するだけでなく、フィールドワークとして広大な学校の敷地内を6つのフィールドに分け、1つのフィールドから25箇所ほど実際に自分で土を採取して、手で触り匂いを嗅いで違いを見つける。採取した土は、更に調査会社に送って正確なデータを出してもらい、その調査結果と自分で感じたことをもとに、敷地を何に利用すべきかを見当する。
不思議なもので、ずっと土を触って匂いを嗅いでいると、ここはカーボンが多いなとか、酸性質だなと見当がつくようになってきました。

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(↑ひらすら地味に手作業で土を採取していく)

○学校の敷地のある場所をサンプルとして、4 kingdomsの見方でをそれぞれを分析観察し、どう利用すべきかをプレゼンする。
土質、植生、動物、人間という4つの視点で、1つの場所を観察・分析し受ける印象や人の流れを検討して、どういう場所にすべきかを考える。私は、ある学校の一箇所(建物外)を調べ、新しいファームセンターとして提案しました。

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(↑アイディアメモ)

以上のような方法を通じ、「土地と工芸の結びつき」に関し学びました。
この考察のおかげで、自分のモノの見方が広がってよかったと思います。次回日本に帰った際は、日本の土地や環境と文化というものをもっと見てみたいと思いました。結果的に視野が広がってよかったと思いますが、いつも全部英語を使い、土地の観察方法としても「ゲーテ的自然観察法」をベースとすると言われ、「ゲーテ的自然観察法」って何?というところから調べないといけず、ゲーテを理解するだけでも一生かかるんではないかと最初は途方にくれました。ちなみに、「ゲーテ的自然観察法」とは簡潔に言うと、何も概念や知識のフィルターをかけずにモノを観察すること。鶏などの絵で有名な若冲などもそうやってモノを観察していたと昔聞いたことに繋がりました。あと、大学時代に布施英利先生の解剖学の授業を取っていましたが、その授業で聞いていたことが今になって繋がったりもしました。もっと大学生のうちに熱心に学んでいたらと今更少し後悔します。
30歳を超えて新たなことを学んだり、自分の得意分野ではない農業や教育といったところで活動するのはなかなか辛い時もあり、早く芸術やデザインのフィールドに戻りたいと思いますが、いつか自分のフィールドに帰った時に新しい視点を持てるよう今年も学んでいきたいと思います。

ところで、なぜ「土地と工芸の結びつき」を学ぶのかというと、私が今いる学校では、治療教育の一つとして工芸の授業があります。「土地と工芸の結びつき」を理解することは、なぜ治療教育で工芸を学ぶのかという点に繋がってくるからです。「工芸と治療教育の繋がり」に関しては、改めてまとめようと思います。

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