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【美術展2024#30】法然と極楽浄土@東京国立博物館 平成館

会期:東京展
    2024年4月16日(火)~6月9日(日)
巡回:京都国立博物館
    2024年10月8日(火)~12月1日(日)
   九州国立博物館
    2025年10月7日(火)~11月30日(日)

平安時代末期、繰り返される内乱や災害・疫病の頻発によって世は乱れ、人々は疲弊していました。比叡山で学び、中国唐代の阿弥陀仏信仰者である善導(ぜんどう、613~681)の教えに接した法然(法然房源空、ほうねんぼうげんくう、1133~1212)は、承安5年(1175)、阿弥陀仏の名号を称えることによって誰もが等しく阿弥陀仏に救われ、極楽浄土に往生することを説き、浄土宗を開きました。その教えは貴族から庶民に至るまで多くの人々に支持され、現代に至るまで連綿と受け継がれています。

本展は、令和6年(2024)に浄土宗開宗850年を迎えることを機に、法然による浄土宗の立教開宗から、弟子たちによる諸派の創設と教義の確立、徳川将軍家の帰依(きえ)によって大きく発展を遂げるまでの、浄土宗850年におよぶ歴史を、全国の浄土宗諸寺院等が所蔵する国宝、重要文化財を含む貴重な名宝によってたどるものです。困難な時代に分け隔てなく万人の救済を目指した法然と門弟たちの生き方や、大切に守り伝えられてきた文化財にふれていただく貴重な機会です。

東京国立博物館


法然やその後の弟子たちが一般大衆に広く支持を得るために行った様々なことが、現代にも通ずるマーケティング手法の基礎的なことでもあるのが興味深かった。
内容を簡略化する。
必要条件を最少化する。
キャッチーなコピーを用いる。
わかりやすいアイコンを作る。
視覚的、直感的に伝える。
などなど。
ステージが上がっていくと臨終の際に迎えに来る仏の数や豪華さが増していくのもポイント制のゲームのようでわくわくする。


国宝 阿弥陀二十五菩薩来迎図(早来迎)
フルメンバーでAmazonプライムお急ぎ便みたいな勢いで迎えに来る図。
こんな絵を見せられたら安心してあの世へ行けるし、頑張ってステージ上げようという気にもなったことだろう。
作品そのものが素晴らしいのは言うまでもないが、「早来迎」という語感のネーミングセンスも素晴らしい。

公式図録より


国宝 綴織當麻曼陀羅 奈良・當麻寺
でかい。
なんと4m四方もある。
壁一面を埋め尽くすこの巨大曼陀羅は奈良県以外で初のお披露目とのこと。ありがたや。
元々織りで描かれていたものが劣化して今では絵柄がほぼほぼ見えなくなっているのだが、それはそれで味があり、なんとも言えぬただならぬ風情を醸し出していた。
しかし織りでここまでの大きさを描くのは相当な労力を要したことだろう。

公式図録より

図録で見るとなんだか良く分からず、その良さがいまいち伝わりづらいが本物はとてつもない迫力だった。
本来はこのような絵柄が色鮮やかに描かれていたようだ。↓

公式図録より


会場には状態の良い当時の刺繍掛け軸が展示されていた。
これだけでも(という言い方は語弊があるが)本当に素晴らしいクオリティだったが、《国宝 綴織當麻曼荼羅》の全体がこのクオリティのまま描かれていたことを想像すると本当に驚きだ。
ありし日の全容を見てみたい。

公式図録より


昔、チベットのラサで1年に一度だけ行われる大タンカ御開帳を見て感動したことがある
《国宝 綴織當麻曼荼羅》は、さすがにそこまでの大きさではないのだが、心振るわせるには十分すぎる大きさと雰囲気だった。

チベットの大タンカ御開帳 2004年


日課念仏 伝徳川家康 江戸時代 東京国立博物館
徳川家康の自筆とされる。
政府中枢までたどり着いた布教力がすごい。

上から1段目と2段目に一つづつ「南無阿弥家康」と書かれているのだが、どこにあるかお分かりだろうか。
なぜそのように書いたのかはわかっていないそうだ。

公式図録より


仏涅槃群像 江戸時代 香川・法然寺
会場最後での唯一写真撮影可だった仏涅槃群像。
弟子たちの嘆き悲しむ姿が生き生きと描かれている。
資料を見ると本来はもっとキツキツに敷き詰められている様子。


パッと見たときに漫画のような大きな黒目を見開いているように見えたが、良く見たらもちろんそんなわけもなく瞼は優しく閉じていた。
多くの人に触られ擦られ色が落ちてしまったのだね。


往年の鮮やかな彩色を偲ばせる。
このくらいの侘び寂び感が程よい。

動物たちも悲しむ。

三沢厚彦感がある象の表情が良い。


素晴らしい作品(と呼んで良いものか)が目白押しだった。
何より当時の方々の美意識や技術力、デザインセンスなどが本当に秀逸だ。

そしてそれらを前にして、死への恐怖や乗り越え方は古今東西どの宗教や文化も根本は似ているのだなとつくづく感じた。
人間の弱さや強さが表象される造形物は洋の東西を問わずに実に奥深く素晴らしい。


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