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「旅行ですか?」

キャンプ先へ向かうにあたり、空き空きの高速道路をぶっ飛ばしたところ、我が家のオンボロ自動車が悲鳴を上げた。インターを下りる直前で突然、「ピー!」とアラームが鳴り、ブレーキ警告灯が点滅し始めたのだ。夫も私も顔面蒼白。ブレーキがちゃんと踏めるかを確認する。大丈夫だ。高速を下りたら、一目散にガソリンスタンドに駆け込むほかあるまい。グーグルマップによると、偶然にも出口の街には、ガソリンスタンドがここかしこにあるようだ。ホッ。

しかし、最初に駆け込んだスタンドには「セルフだから対応できない」と断られた。近くの系列店舗を教えてもらい、そちらへ行ってみる。だが、次では「エンジンは診られない」という。エンジンオイルの量だけでもと確認してもらうと、満タンだった。いよいよ機械的な問題が生じていることを覚悟せねばならない。次は地場の整備工場を案内してもらう。ものの2分の距離。ありがたい。作業中の方に話しかけると、「今日はエンジンの技術者がいない」とのこと。対面の別の整備会社に声をかけてという。再び方向転換をして言われた先を目指すと、オフィスは消灯していた。あぁ万事休す。

夫がスマホで検索した整備会社に連絡を入れた。一軒目は一見さんお断り。二軒目はラジオでよくCMが流れる整備会社。なんと、快く受け入れてくれるという。しかもここから5分程度の近場にあるようだ。恩義があるので名を出すと『コバック』である。本当にありがとうございました!

到着するや否や、整備士の方が来てくれて、モニターのような機械を使い、「これはABSの不具合で、ブレーキ自体は大丈夫」との結論を出してくれた。あちこち回っている最中、ドアの開け閉めをするたびに警告灯の様子が変わり、ブレーキ警告灯が消えて、ABSの警告灯が黄色く光ったり、両方点いたり、表示がランダムだった。それはABSが原因だったようだ。ABSに問題があれば、次の車検は通らないとのこと(それはそうですよね)。交換となれば、10万円以上の出費になるという。車検まであと2か月しかない。内装の剥がれが目立つところも多々あるし、いよいよ手放す潮時なのか。

そんなことを考えながら、少し離れたところで夫と整備士の話に耳を傾けていると、違う整備士に声をかけられた。「旅行ですか?」 これはコロナを気にされているのだろうと察知する。「これからキャンプに行くところです。直行直帰のつもりだったのですが、ブレーキがおかしくなって、申し訳ありません」。「旅行ですか?」と聞かれただけなのに、気づいたら謝っていた。すると、しょうがないなぁという表情で、「がんばって」と言い残して立ち去っていった。

大変申し訳ない気持ちになった。都心から来たというだけで、我々の存在は不安要素になると悟った。ここは屋外の整備場。マスクはもちろん装着していて、距離をとって話をしている。滞在時間も15分程度。東京人からすれば、ソーシャルディスタンスは問題ないシチュエーションだ。でも、我が家の車が地元のナンバーではないということが、不安を抱かせていたのは明らかだった。

刻々と増える感染者数が、日本全体の不安を煽っている。都心から来た人は車のナンバーで一括りにされ、不安を運ぶ存在としてマークされることもある。結論付けは非常に難しいが、少なからず「自分だけ良ければいい」という態度は避けるべきかと思う。コロナを通じてさまざまな立場に置かれた人がいて、それぞれの心情を想像しながら動くことが求められていると、半年ぶりの遠出で実感した。

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