シャルドネ収穫記 ~SawaWinesさん編~
台風の三連休。夫の実家の福岡に帰省したついでに福岡ワ活をする予定が、帰りの飛行機が欠航。
そんな折、「SawaWines」さんからシャルドネの収穫のお手伝い募集があったので、瞬間的に「お願いします!」とご連絡し、うかがうことにしました。
SawaWinesさんは、千葉県にあるワイナリー。現在千葉県には、4つのワイナリーがあります。
千葉県ではなんと90年間もの間、『齋藤葡萄園』さんがたった一軒でワインを醸造して来られました。千葉のワイン造り、結構歴史は古いんですよね。
▶ 千葉県のワイナリーまとめはこちら
千葉県ではここ数年、新しいワイナリーの立ち上げが続いています。Sawaさんもまさにそんな新進気鋭のワイナリーのうちのひとつ。チーバ君のほっぺにあたる、千葉県八街(やちまた)市に所在しています。
八街市は「落花生(ピーナッツ)」の一大生産地。あたり一面のピーナツ畑から乾燥した土が巻き上がる「やちぼこり」は、春先の困った風物詩です。
SawaWinesさんまでは最寄りのバス停から歩いて20分ほど。タクシーで向かうこともできたのですが、せっかくなので八街のテロワールを感じながら歩いて現地に向かいました。
さて実はこの八街市、「ワイン特区」になっているんです。ワイン特区は、規定の量よりもすくない量からワイン醸造をはじめることができます。つまり、小さな畑でもワイン造りに挑戦できるということ。
Sawaさんもこの流れのなかでワイナリーを立ち上げ………と、言いたいところですが、実はこの八街市の「ワイン特区」、まさにこちらのSawaさんが行政に掛け合ってできた制度なんですって。なにそれむちゃくちゃカッコいいな。
SawaWinesさんは、山本さんご夫婦がふたりで営んでおられる小さなワイナリーです。祖父の代からの畑を使って、ブドウ栽培とワイン醸造に乗り出されたのが2010年。
その後、スズメバチによって葡萄が全滅、2019年の水害ではほとんどの樹が倒れる、醸造免許がなかなか降りないといった苦節を経て、ようやく2021年から自社畑、自社醸造のワイン造りをはじめることができたそうです。な、涙出る……!
そんなSawaさんですが、今回収穫させていただくシャルドネの醸造は今年がはじめてとのこと。
というか、実は昨年もシャルドネは育ててたんですって。でも、酒造免許が下りていなかったため、どうすることもできなかったんだそう。育ったブドウもこれ以上待てない時期となり、致し方なく収穫せざるを得なかったとのこと。
明日にでも免許が下りないかと、かごに入れてぎりぎりまで準備していたそうですが、結局タッチの差で酒造免許が降りず、ついに昨年収穫したシャルドネは使えなくなってしまった、とのことでな、涙出る………ッ!!
山本さんがおっしゃるには、実はこの酒造免許の取得が結構くせ者なんだそうです。
ちょっと込み入った話で恐縮ですが、現在ワイン造りは「酒税法」のもとで管理されており、管轄が「国税庁」になるんですね。農林水産省ではなく。
そうするとどうなるかというと、国税庁の仕事は「税金を徴取すること」なので、どうしても法律やシステムが「税金をきちんと取れるか」という文化のもとで形成されてしまうのです。
つまり管理側としては「ちゃんとワインを造って、税金が取れるのか」というところに(システム上)主眼が置かれてしまうため、免許の審査をするときに、「ワインが醸造できる醸造施設かあるかどうか」「本当に規定量のワインが造れるのかどうか」ということが、重視されてしまうのです。まだ造ってもないのに?
というわけで、数千万円をかけて醸造設備を作ったのに醸造免許がおりず、1年分の葡萄の醸造ができませんでした、ということがときどき…というか、まま起こるそうで、いやそれ詰んでない??と思うわけですよ。
1年を無駄にするかもしれないことに対して、覚悟かお金がある人しかワイン業界に参入できないとか、いやもうこれどうにかしたほうがいいよほんと……ちょっとそこのえらい人、1回あたしとワイン飲みながら話そう?
というわけで、つまりSawaWinesさんにとってシャルドネの醸造は2年目の悲願。そんな記念すべきファーストヴィンテージに立ち会うことができたなんて、ありがたいことだなぁ…!
ところでこの日参加したのは、われわれますたや夫婦を含めて5名。
おひと方は八街市でご実家がメロン農家をされている気さくな男性。そしてもうおふた方は、元気な女性ふたり組。
畑で元気に挨拶をかわしつつ、あれ?この方たち、どこかでお会いしたような……?と思っていると、「じゃあ、船越さんのおふたりは…」のひとことで「あ?!」「あれやっぱり3000円の?!(※わたしです)」とお互いに握手を交わし合いました。
なんとおなじく千葉県のワイナリーである、多古ワインさんのおふたりでした。ワイン界隈、狭ない?!
そんなわけで、のっけからテンションがマックスなわけですが、「まあ、いいくらいの時間までやりましょう」といったゆるい感じではじまりました。
とはいえあしたには雨が降りそうなので、できるだけ収穫量を稼いでおきたいところ。せめておひとりで作業するよりも量を稼ぎたいと思いながら、作業開始です。
ちなみに実際の作業としては、かぶっている傘を破り取って、ブドウをばつんとハサミで切り、「悪い実」を選果したうえで、どんどんかごに入れていく、という流れ作業。棚仕立てなのでときどき腰を伸ばしながら、ひたすらバツンバツンとやっていきます。
シャルドネの実は枝との隙間が小さく、けっこうみっちみちに枝に引っ付いていることが印象的でした。
昨年、山梨県の田中農園さんで甲州の収穫をさせてもらったときは、もっとハサミが入れやすかった感じがします。ブドウによって、個性いろいろなんだなぁ…!
▶ 田中農園さんでの収穫体験(2021)はこちら。
ちなみに甲州とくらべると、房もだいぶ小ぶりな印象でした。「シャルドネって、(房が)小さめの品種なんですか?」と山本さんにうかがったところ、「2019年の水害のときに樹が全部倒れしまって、それからまだ完全復活していない気がします」とのこと。
そう。2019年、千葉県全域が水浸しになった水害があったのです。
あのとき、遅めの夏休みでたまたま沖縄にいたわたしたちは、テレビから伝えられる我が国の惨状をかたずをのんで見守りました。帰りの空のうえから見えた「でっかい水田」状態の千葉県に、ひどく胸を痛めたことを覚えています。
いやあ、こんなところに爪痕が残っているのか……と、思わずうなってしまいました。倒れた自動販売機を起こし、曲がったカーブミラーを補修し、ぼきりと折れた大木を片付けても、全部が元通りになるには本当に時間がかかるんですね。
自然相手の仕事は、起こる出来事のひとつひとつのスケールがでかくて、どうしようもない気持ちになります。それでもこうして実をつけてくれたシャルドネに、「育ってくれてありがとう」と心からの感謝を抱きながら収獲していきました。うん、どうか美味しいワインになっておくれよ…!
そうこうしているうちに空が暗くなり、本日はタイムリミット。帰りにはなんとご厚意で醸造設備も見せていただき、心がワインでいっぱいになった半日となったのでした。
山本さんがお話下さったことで、印象的だった言葉があります。
「わたしがワインを造りたいと思っている方にアドバイスするとしたら、とにかく醸造をはじめたほうがいい、ということです」
2010年からはじまったブドウ栽培。最初にワインとして結実したのは2020年でした。1年目は、勝沼醸造さん、マザーヴァインズさん、シャトー酒折さんといった醸造所で、「数軒の若手ワイナリーが集まって、指導官についてもらいながら醸造をする」という研修をおこなったそう。へぇ、そんなシステムがあるのか…!
でも、委託醸造は毎回委託料がかかるし、そのたび負担がある。だったら、とにかく最小限の施設でいいから、醸造できる設備を整えて自分でやってしまったほうがいいです、と山本さん。
柔和で、控えめで、朴訥とした語りのなかに、きらりと光る信念が垣間見えて、ああ、職人の目だ…!と、かっこよさに打ち震えました。
こんなに静かに淡々と、でもしっかり前だけを見て、ときにはハイリスクを取りながら、ワインを造り続けていく。その覚悟と、バランス感覚。
すごいひとはすごいことを「普通に」やってのけるから、つい何も気づかず通りすぎてしまいそうになるけれど、こうしてはたと立ち止まったときに、「すごい」が臨界点に達します。
いやぁ…いい話だったなぁ。そして、なんだか勇気が出るお話でした。
「やりたいことは、やったほうが早いですよ」――
というわけで、金言至言をたくさんいただいた帰り道。日本ワインの現場に行くと、どうもこう、胸が震えていけません。
というわけでやはり日本ワインが飲みたくなり、千葉エキナカのIMADEYAさんで1杯ひっかけて帰りました。農作業後のワインが身に染みる~…!
ただいま日本は、ブドウ収穫期の真っ最中。各ワイナリーさんがInstagramやフェイスブックでお手伝い情報を出したりしています。直前の募集も多いですが、タイミングの合う方はぜひ畑に行ってみてください🍇ワイン愛が深まること、間違いなし…!
▶ ちなみに醸造家Nagiさんによると「心の中ではもっと早く…!と思いながら言わずにいます」とのこと。……ご、ごめんなさい!
それでは、次の #3000円ワイン では、SawaWinesさんのワインをご紹介いたします。お楽しみに!
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■ ますたやとは:
関東在住の30代、3000円ワインの民(たみ)。ワインは週に約5本(休肝日2日)、夫婦で1本を分けあって飲みます。2021年J.S.A.認定ワインエキスパート取得、2022年コムラードオブチーズ認定。夫もワインエキスパートを取得、現在はWSETLevel2を英語で挑戦中の、ワイン大好き夫婦です!
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