笛吹ワイン醸造の旅
国境の長いトンネルを抜けるとワインの国であった。
こんにちわ。ワインが主食のアルパカ、ますたやです。
ちなみにこれ、アルパカ二代目です。一代目のアルパカはシャンパーニュを飲んでたんですが、謎の生物が謎の液体を飲んでる感じになったので、描きなおしました。繰り返すようですが、アルパカです。わたしの画力の限界です。
さて、いい季節になりました。読書の秋、食欲の秋、そして実りの秋。ワインにとっては、Vendange(ヴァンダンジュ=収穫)の秋であります。
2021年9月25日(土)。目覚めとともに空を見あげたますたやは「うーん」とうなりました。あやしい。天気予報は曇り。なんとかざんざん降りの雨は避けたいと思いつつ、四足歩行にて一路勝沼へとむかいます。クラフトワインオーナーの、収穫祭に参加するためです。
クラフトワインオーナー。実はわたしも今回、このイベントをはじめて知りました。今回の収穫祭を企画なさっているワンドマーケットさんのホームページには、
とあります。ワインを造る? どういうこと?
ワイン関連に関しては、脳の判断力が著しくにぶるますたや。百聞は一見に如かずということで、さっそく現場検証にむかうこととなったのでした。
さて、ここで話は冒頭にもどります。山梨県といえば、泣く子も黙る日本有数のワイン県。なかでも銘醸地勝沼をはじめとする甲府盆地周辺の地域は、盆地というだけあって、周囲をぐるりと山々に囲まれています。このため、勝沼に行くためには必然的に、いくつかのトンネルをくぐることになるのです。
立川駅から特急あずさに乗り換え、勝沼へと向かう道すがら。どんどん天気はあやしくなり、車窓にはぽつぽつと雨の雫が流れ始めました。車内にいてもわかるほど、外気はひんやりと冷えています。うーん、これは上着が必要だったかな… 収穫祭が中止にならなきゃいいんだけど…
初めてのイベント、しかもワイン造りという謎イベントに、ちょっと緊張さえしていたますた。なんとなくしんみりした気持ちになりながら、最後のトンネルを抜けた、瞬間。
晴れーーーーーーーーー!(爆笑)
いやいやいや、えええぇぇ?! さっきまでの雨どうした?! どう見ても降ってたやん! 窓濡れてたやん!!
もはや川端康成もびっくりの急展開。のっけからクライマックス。たぶん、康成もびっくりしたんでしょうね、トンネル抜けたら雪で真っ白とか、笑うしかない。トンネル抜けたらピーカンのワインの国だったのとおなじくらい笑う。なんだったら爆笑したかもしれない。わかる。康成と握手したい。
ちなみに、あとから農園の方に聞いたところ、「ああ、よくあることだよ」とさらっとおっしゃってました。よ、よくあるんだ… どうも周囲の山々が雲の侵入をふせぐために、ここ甲府盆地はそもそも晴天の日が多いらしいです(参考:甲府市HP)。
さ、さきに言ってよね~! あー、びっくりした。わたしのしんみりを返せ。
そんなこんなありながら到着したのが、本日お世話になる、田中農園さんです。
まずね、ちょっとここでいったん、これ見てください。
[▶ 動画:田中農園さんの葡萄園(ますたや撮影) ]
いいですか? 見ました? 念のため写真も貼っておきますね。
すごくないですか? みわたす限りの葡萄棚。
ちょうど目の高さ一面に、はちきれんばかりの実をつけた葡萄が垂れさがる様子は、ちょっと壮観です。背をかがめていないと葡萄にぶつかるくらいの、葡萄との距離感。葡萄との親密感がすごい。愛しさが半端ない。
垣根仕立ての葡萄畑も、空が広く開放感があって大好きですが、こんな風に視界のすべてが鮮やかな葡萄に埋め尽くされる棚仕立ても、非日常感があってわくわくしました。棚の隙間からこぼれ落ちる光は、まだら模様の影をつくるんですね。あまり普段見ることのない光の加減は、なんとも言えず風情があります。
さて、情緒が忙しいですが、ここまで来てまだはじまってもいません。嘘やろ。高鳴る胸をおさえながら、ここでようやく受け付けの開始です。
「はい、ではこちらの葡萄とワインどうぞ~」
どういうこと??
え、どういうこと?? 葡萄酒飲みながら葡萄酒造るの? 天国??
あ~はいはいわかってきたぞ、あれか、飲んで減った分をまた造ることで、地球全体の葡萄酒の総量が変わらない的な? サステイナブル的な?? SDGs的な???(混乱)
「適当に準備できたら、そのへん歩いてるお父さんつかまえて声かけてくださいね~」
はい。ということでこちらが、そのへんを歩いていた田中農園のお父さんです。日に焼けたはにかみ笑顔がとってもキュート。
今回収穫させていただくのは、日本の誇る白ブドウ、甲州です。甲州は、日本固有の葡萄品種のなかでもっともはやい2010年に、OIV(国際ブドウ・ワイン機構)のリストに登録された葡萄です(参考:日経新聞)。
みなさんご存知のとおり、甲州からはおもに白ワインが作られるのですが、葡萄自体は「グリ系」と呼ばれる種類で、果皮は淡い藤色をしています。
この色がね… また、いいんですよね。なんというか、日本らしい、というと時代錯誤かもしれませんが、白でも黒でもない、高い熟度やはっきりとした甘みを持つわけでもない、酸味もあるけど強くはない、そんな曖昧なこの葡萄の、淡い味わいや繊細な個性それこそが、散り行く桜を「美しい」と感じる、日本の心なのかもしれません。
葡萄の収穫の仕方はとっても簡単です。葡萄が枝にぶらさがっている茎の部分をハサミでチョキンとするだけです。
ただし、”干し葡萄状態” になっている部分は、<晩腐病>に罹患している部分とのこと。この葡萄がワインに入ってしまうと、ワインにカビの匂いがうつってしまうため、慎重に選果をしながらの収穫となります。
これ、あとからわかるのですが、わたしたちが摘んだ葡萄、ほとんどチェックをされることなくそのまま搾汁されていきます。つまり、ここでの選果が結構重要。責任重大です。
「葡萄、摘みながら食べていいですからね~」
出… 出た、これが、サステイナブル・・・!(大混乱)
さて、出荷用の箱がいっぱいになったらついに出荷です。
軽トラックに隙間なくみちみちに積み込んで、
田中農園さんから歩いて5分ほどのところにある、日川中央葡萄酒さんにて、葡萄の搾汁を見学させていただきます。
日川中央葡萄酒さんは、ご家族経営のちいさなワイナリーさんです。
搾汁の際にこちらのお父さんから、日本ワインについてのお話をうかがうことができました。いわく、甲州種はかつて今よりもさらに酸味が強く、飲みにくい品種だったそう。しかし、病害とのバランスを取りながらボルドー液の散布を控えるなど、工夫を続けて来られたそうです。
ちょうど今年の7月、同地 勝沼のワイナリーである白百合醸造さんが、世界一のワインコンテストと名高い Decanter World Wine Awards 2021 にて、アジア最高得点でプラチナを受賞したとニュースになっておりました。日本ワインが盛り上がることは、とても素晴らしいことですね。
「自分たちのワインの醸造が、大きなところと比べて劣っているということはないです」
優しくほがらかなお父さんのお話に、一同が聞き入ります。
「でも、外国への輸出までは手がまわらない。それは大手さんに頑張っていただいて、わたしたちは自分たちができる範囲で、ワイン造りをやっていきます」
あはは、こんな能書きをすみませんねぇ・・・と、照れ笑いされるお父さん。いえいえ、とってもかっこいいです。たくさんの貴重なお話を丁寧に伝えてくださり、首がもげるほどうなずきました。働く大人って素敵だ…!
搾汁は、機械にておこないます。
葡萄はつぶれた瞬間から酸化がはじまってしまうとのことで、なるべく優しくベルトコンベヤーに流すと、
葡萄はドナドナと運ばれて行き、
機械の上部から、機械のなかへと次々に投入されていきます。さようなら…!
そうして、茎や梗が自動で仕分けられ、
機械の下部から、新鮮な葡萄ジュースが流れ出て来ます。これが、ワインの原液になるんですね。
ここまで、ほんの数十秒。あっというまのできごとです。人類の英知がすごい。
絞ったフレッシュ甲州ジュースも、なんとその場でいただくことができました。ひゃー
あまい! そして、しっかりと酸も感じます。これが、ワインになるのかと思うと、なんだかとっても感慨深い。
いいかい、あなたたちはこれからワインになるのよ。よーく酵母先生のいうこときいて、よくよく眠って、いいワインになるんだよ!;;(母性)
結局、日中はかなり気温もあがり、カラッと晴れた夏日の1日となりました。ぶどう棚の隙間から見える青空が、本当に気持ちいい。
しかし夕方に勝沼を旅立つ頃にはすっかり日も落ち、外はかなりひんやりと冷え込みました。この気温差が、葡萄たちを強く優しく育てるんだなあ。
こちら、旅の最後に立ち寄った、甲州市勝沼ぶどうの丘からの眺めです。眼下に広がる緑はすべて葡萄畑です。すごいですよね。
こうして夕陽に照らされた勝沼を一望しつつ、テロワールを感じた旅の締めくくりとなったのでした。
葡萄、なんというか、かわいかったんですよ。
みんな実がぱつんと張っていて、艶々、ぷりぷりしていて。農家のみなさんが愛情と手間をかけて大事に育てて来られたことが、ひしひしと伝わってきました。しかもこれらを育てて来てくださったのは、他でもない、目の前にいらっしゃる ”この方たち”。そんな風に思うと、ますます愛おしく感じますよね。
日本ワインのいいところは「現地に行けるところ」だと思います。現地の土を踏み、空気を吸い込み、太陽の強さを肌で感じる。農家やワイナリーの方と直接お話して、葡萄栽培やワイン造りへの思いをうかがう――
ワインってね、ただの”お酒”なんです。飲んで、おいしくて、ちょっと楽しい気持ちになれれば、それで十分。肩ひじはる飲み物じゃないし、間違っても「知らなきゃ人生損する」ほどのインパクトがあるわけでもない。
でも。
こんな風にワインと出会うたび、ちょっとだけ自分の人生が豊かになった気がするんです。知ることが増えるたび、感じることが増えるたび、ちょっとだけワインのことを好きになって、ちょっとだけ見える世界が広がっていく・・・
それって、なんか、うれしいなって思います。
気のせいかもしれないけれど――
山梨、ワインの国。長いトンネルを抜けて、また、会いに行きたいと思います。
それでは、次は3000円ワインで会いましょう!ますたやでした♪
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ますたやとは:
関東在住の30代、3000円ワインの民(たみ)。ワインは週に約5本(休肝日2日)。夫婦で1本を分けあって飲みます。3000円ワイン以外のワインについては、Vinicaにて夫が更新中。現在は夫婦そろって、2021年ワインエキスパートの二次試験に向けて勉強中です。はやくおいしいワインが飲みたい!
twitter:@3000wine_tami
Instagram:@3000wine_no_tami
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