ベトナムにいったい何があるというんですか?~フレンドリーハノイ、「まあいっか」編~
――ベトナムにいったい何があるというんですか?
年の瀬も押し迫った、2022年12月30日。無事に家の大掃除を終えたわたしたちは、すかすかのトランク片手に成田空港へと向かいました。
そう。今からわたしたちは、太陽の国ベトナムへと飛び立つのです。
ベトナムになにがあるのかと問われれば、答えられることはたくさんあります。
耳をつんざくクラクションと、途切れることのないバイクの流れ。絶妙なバランスで積み上げられた鮮やかなフルーツ。
昼間から中国将棋に興じるおじさんたちの横を、働き者の女性たちが悠然と通りすぎてゆきます。
または、豊富な食文化。
フォーにブンチャー、ミーサオにバインミー。ランチのあとのほの甘いエッグコーヒーは、旅人の心を簡単に癒します。
一方では、ビール1本80円という低い物価や、絶望的なほどに混乱した交通状況は、ベトナムの「今」の社会水準を反映したものでもあります。
1975年、南北ベトナム戦争を経て社会主義国家となったベトナムは、現在およそ人口1億人。平均年齢は31歳(2021年)、コロナ禍以前の経済成長率は6~7%と、成長著しい活気のある国です。
しかし、ほんの最近まで「発展途上国」でもあった彼らの生活は、決して豊かなものではありません。
平均月収は約2万円、年収にしておよそ25万円。安い物価はすなわち、「物」や「人」の価値の安さの現れでもあります。
路地裏で食べる150円のフォーは、街のひとびとの生活を切実に支えてもいるのです。
それでも若者たちは外に出て、楽しげに笑いあいます。
ベトナムの若者たちは、本当に仲がいい。レストランの店員も、レジャー施設のスタッフも、道端で談笑する男女も、いったい何がそんなに楽しいのか、肩を叩きあって笑っています。もちろん、お客のことなんかそっちのけで。
バイクにまたがり、スマートフォンを操作し、ユニクロファッションに身を包む彼ら。その姿は一見、日本にいるわたしたちと何ら変わりないように見えます。
さて、この混沌とした国ベトナムでも、ワインが造られています。
そう。
ベトナムにいったい「何」があるんですか。
その答えのひとつが、「ワイン」です。
今回のワールドワ旅ツアーは、ベトナム。この、賑やかでユニークな国の南部高原地帯である「ダラット」で生まれる、南国ワインを探す旅です。
さあ、JALの翼を広げてひとっ飛び。
いったい、どんな出会いが待っているのでしょうか。
前日譚
そもそもなぜ、我々がベトナムに向かったのか。
それにはもうすこし、わたしの長い自分語りにお付き合いいただかなければなりません。
ますたや家の夫は、2014年から2015年までの足掛け2年弱、ベトナムに駐在していました。住んだ街は、ホーチミンとダナン。特に、当時のホーチミンは今よりもさらにのぼり調子の時期で、「これからぐんぐん発展してやるぜ!」という、勢いと気概を感じる街だったそうです。
それを示すように、街のあらゆるところでは建物のスクラップ&ビルドが繰り返されていました。古き良きアパートのうしろにそびえ立つ、ピカピカに輝く高層ビル群。それはまるでホーチミンの、そしてベトナムの、明るい未来の象徴のようでした。
さて、ベトナムに住み、ベトナム人と働き、ベトナムの文化に触れる中で、夫はベトナムという国のことを心から愛するようになります。いつしか彼の足は自然、ベトナム国内のさまざまな場所に向かうようになりました。
ランタンの光が美しいホイアン、ド派手なカオダイ教総本山のあるタイニン省、のどかな棚田とモン族の暮らすサパ、海辺のビーチリゾートニャチャン、そして、仙人が住むならここに違いないハロン湾ーー
顔の凹凸が深く、黒く日に焼けた彼の姿は、完全にベトナム人のそれでした。日本人同士でつるんでいるのに、ひとりだけベトナム語で話しかけられたことなど枚挙にいとまがありません。日本の友達に夫の写真を見せたら、「え、この中に日本人いる?」と言われる始末。います。(夫)
そういうわけで夫は日本に帰国してからも、しばしばベトナムに帰っていました。もちろんそのほとんどは仕事ですが、それにも関わらずどことなく浮足立って旅立つうしろ姿を、今でもよく覚えています。
ところが、運命の2020年2月。
突然世界は一変し、あんなに自由だった空を、自由に行き来することが難しくなります。
夫はそのとき、まさにベトナムにいました。日に日に悪化する情勢のなか、ぎりぎりで日本に戻ってくることになった夫。あと1週間日程がずれていたら、どうなっていたかわかりません。
なぜならばベトナムはその後社会主義のメリットを最大限に生かし、強い外出規制をおこなうようになっていったからです。あのままもう少しベトナムに残っていたら。そして日本に帰って来ていなかったら。心細かった「あの」日本の4月を、わたしはひとりで過ごすことになっていたかもしれません。
というわけで、今回の旅のいちばんの目的は、なにを隠そう夫の「帰省」。大好きなベトナムに、夫が再会する旅でもあったのでした。
いやほんと、長かった。ようやくだね。涙が出るよ、よかったねぇ、夫…!
ハノイでワインを探す
さて、話をワ旅に戻します。
今回の旅の起点はベトナムの首都、ハノイです。これは、単純にわたしが行ったことがなかったから。それから、「古き良きベトナムの風景」を見たかったからです。
我々はハノイで1泊したあと、国内線でダラットへと向かいます。そしてダラットでさらに1泊し、ハノイに戻って来る弾丸日程。いや基本弾丸なんだよなぁうち…
ハノイでは前後の日程を合わせて、合計2日半ほどを過ごすことになっています。
さて、2日半ほどあったハノイ街歩きのうち、ほぼ1日分を何に使ったか。
そう。「ワ活」です。(でしょうね)
ありとあらゆる観光名所に目をつむり、有名なランドマークには目もくれず、街の各地に点在するワインショップをのぞいてまわる、ただそれだけのワ活…!(日本と一緒じゃん…!)
というわけで以下、少しばかりわたしのワ活に、お付き合いください。
ちなみに、だいたいの値段感は、ほぼ日本と変わらないくらいでした。品ぞろえはややイタリアが多い印象ですが、フランスもアメリカも手に入ります。大きなお店の端のほうには、南アフリカもちょこっと置いてあります。いわゆる格付けシャトーや有名ワイナリーもそれなりに見かけ、これらも日本とそう変わらない値段のよう。
ただ、逆に1000円前後の安ワインをあまり見かけませんでした。基本は(日本円で)3000円台以上から。2000円台のワインさえも少ないのです。
おそらくですが、ここハノイで売られているワインは、そのほとんどが駐在の外国人か観光客向けなのでしょう。今回お店をまわるなかでも、地元の方はほとんど見かけませんでした。
ビール1本80円の国では、3000円台のワインは「高級品」。3000円ワインの民あらため60万ドンワインの民は、ベトナムではかなりのセレブリティなのです。
ハノイのワ旅スポット、Red Apronへ
ベトナムのワ活スポットとしてはずせないワインショップのひとつに、【Red Apron(レッド・エプロン)】があります。
こちらはフランス人女性オーナーが、ベトナム全土で手掛けているワインショップ。フランス本国でワインの修士号を取得されたのにも関わらず、あえてこの南国ベトナムでショップを展開するあたりに、キャリアの多様性を感じずにはいられません。
ちなみにカンボジアのプノンペンにも1軒あるのですが、我々は以前、そこにたまたまうかがったことがありました。
というのも、プノンペンはものすごく暑いわりに電力が弱く、すぐに停電します。そのためお店のクーラーが控えめで、とにかくどこに行っても暑い。プノンペンの街歩き中、あまりの暑さに意識が朦朧としかけた頃、目に飛び込んで来た「涼しそうなお店」がまさに、この【レッド・エプロン】だったのでした。
おひさしぶりです。あのとき命を助けていただいた、人間です。
レッド・エプロン、避暑地としてもおススメです。(もちろんいいワインもそろってます)
ハノイでワインを飲む
さて、今回ワインを飲んだなかでも、特にオススメのお店を3つご紹介します。ハノイに行かれるワ活の民のみなさんは、ぜひ旅のご参考にどうぞ!
Colette French Bistro & Wine Bar
ひとつめは、カジュアルなフレンチビストロ、コレット・フレンチビストロ&ワインバーです。
なにが楽しいって、まずは見てくださいこの、最高の光景を…!
サーバーには、常に32種類のワインが用意されているとのこと。このなかから、ワインをチョイスすることができます。
チョイスの仕方は「4新世界&4旧世界」「プレミアムワイン選び放題」「どれでも10個選んでOK」など、それぞれの予算と気分に合わせて選ぶことができるようです。もちろん、単品で注文することもできます。
ちなみに我が家は「プリペイド式カード」にチャージする方式にしてみました。5000円入れて、5500円がチャージされます。あらお買い得♡
もちろん、料理はどれもカジュアルに美味しくて、ただひたすらにハッピー!
グラスも毎回変えてくれますし、ブルゴーニュグラスとボルドーグラスも使い分けられます。なんなら、白ワイングラスはキンキンに冷えてます。その是非はともかくとして、なんせこの時期以外は基本酷暑だものね、ベトナム…!
フレンドリーなスタッフと話しながら、ワインを選ぶのも楽しい時間でした。
観光の中心地である旧市街からも歩いて行ける距離ですので、使い勝手もよさげ。そんなこともあってか後半は多国籍な人々でお席がいっぱいになっていたので、予約がベターのようです。
なんせネットから予約可能で助かる…!英語しゃべらなくていい…!
Tannnin Wine Bar(タンニン・ワイン・バー)
続いてのお店は、こちら。その名もタンニン・ワイン・バーです。これは俄然、ワインどころっぽいぞ…!
カウンター前の黒板に書いてあるワインが、本日グラスで提供されるワインとのこと。
わりとしっかりしたワインリストもあったので、数人で行ってボトルを選ぶのもよさそうです。
ただ、この日は残念ながら、ほとんどのグラスが売り切れになっていました。元旦の翌日に行ったので、さすがにたくさん空いたのかもしれません。
旧正月を祝う文化のベトナムでは、単なる西暦の変わり目には、あまり「新年」感がありません。
とはいえ、なにかにかこつけて飲みたいのは、日本人もベトナム人もおなじ。元旦の夜のパブストリートは、若者の熱気でごった返していました。そりゃ、ワインもなくなるわな。
でも、まあ、なんていうか、なくなったら補充しよう……?と、思わないでもないですが、その辺はほら、ベトナムクォリティということで……
この街で心地よく過ごすには、適度な「まあいっか」が必要です。
Pizza 4P's(ピザ・フォー・ピース)
さて、そんな「まあいっか」の国ベトナムでオススメのワインなお店、みっつめ。
それが、こちら。Pizza 4P's(ピザ・フォー・ピース)です。
え、ベトナムで、あえてのピザ?しかもチェーン店?
などと、あなどることなかれ…!
こちらのお店、日本人ご夫婦が経営されているピザ屋さんなのですが、2015 年にホーチミンに1号店ができてから、たった10年足らずでベトナム全土に10店舗以上を展開する大人気店。いやぁさすが某サイバーエイジェントご出身やで…!
わたしも2015年に1号店のホーチミン店にうかがったのですが、このときからすでに予約必須のお店でした。地元の野菜を使い、チーズも自社で製造されるなど、なるべく価格を下げて現地の中流家庭の方も利用できる値段設定にされているんだそうです。そりゃ流行るわ…!
薄焼き生地のピザは「ちょうどいい」感じに美味しく、日本人にとってはややお安い価格設定も嬉しいところ。
そして、ベトナムでは珍しく、なんとナチュラルワインがそろっていて、自然派ワイン好きにもオススメしたいお店です。
▶ エゴサ能力も高い…!さすがサイバーエイジェントご出身やで…!
そして、ここでなによりもびっくりしたのは、ベトナム人スタッフのサービスレベルの高さでした。
我々を席まで案内し、注文を復唱し、ピザの焼き時間を伝える。水がなくなったら、すぐに気づいて注ぎに来る。床に落としたつまようじを回収し、新しいペーパーを入れ替える。はては自前のウェットティッシュを取り出したわたしに、「ウェットティッシュはこちらにありますよ」と教えてくれる・・・・
めっちゃ日本。っていうか、日本よりすごいまでない?
話はすこしそれますが、今回の旅では1食数百円のローカル飯から、1食1万円の高級フレンチまでいろいろなベト飯を食べに行きました。
そのなかでも、とあるフレンチレストランで遭遇したできごとが印象に残っています。
そこはメインディッシュが1品6000円ほどする、日本で考えてもそれなりに「いい」創作フレンチレストランでした。ところが、ここのスタッフのサービスが、なんともカチコチに固くて、どうも気疲れするのです。
注文を待つあいだ、所在なげに近くをウロウロし続ける。食べ終わっていないお皿を、なぜか強引に片付けようとする。なんとなく近づいては来るけれど、どうしたらいいかわからないのか結局離れていく・・・・
使わなくなったメニューを片付けに来た彼が、そのメニューを「縦に置くか、横に置くか」で永遠に悩んでいるのを見たときには思わず「いやどっちでもいいわ!」って言いました。あのね、メニューを縦に置くか横に置くかについて、サービスの正解はないのよ……!(どっちでもいい……!)
ベトナム人たちは基本的に人懐こく、家族や友達とのおしゃべりを大切にする方が多いです。街の人々はいつも楽しそうに談笑してますし、お店のスタッフなんかBGMに合わせて踊ったりしてます(ほんとに)。普通に接してくれれば、(そしてそれが忙しいときでなければ)、普通にフレンドリーでご機嫌で親切なはずなんです。
一方で、「高級レストラン」「高級ホテル」「高級なサービス」なんてものとは、おそらく縁遠い人生を送ってきたであろう彼ら。一食で自分の給料と同じ食事を取る日本人は、彼らから一体どう見えるのだろう。
いくら「いいサービス」を提供したいと思っていても、経験したことがないから「正解」がわからない。だからこそ萎縮して、ただただ緊張してしまう。彼らに圧倒的に足りないのは「経験」なのかもしれない――などと考えていた矢先のPizza4P's。正直たまげました。え、できるんじゃん…?!
ベトナム人と一緒に働く夫が言うには、彼らはときに、指示されたこと「だけ」をこなそうとする傾向があるんだそうです。
「ブランコが軋むから、ネジ見て来て」って言ったら、本当にネジだけを見て「問題ありませんでした」と帰ってくる。いや、ネジに問題がなかったら他に問題があるんよ、だってまだ軋んでるじゃん…!って言っても、「?」って顔をされることがあるんだそう。
そんなとき、彼らの顔にはこう書いてあります。「だって、ネジ見て来てって、言ったじゃん」…?
ひと前で怒られることが苦手な彼らは、こうして叱られるたび少しずつ信用度を下げていきます。そしていつしか、ふっと辞めてしまう。
これを、「ベトナム人は忍耐力がない」と捉えてしまうと、わたしたちの理解は永遠に平行線をたどります。
これ、なにもベトナムに限ったことではないんですよね。他国の方と接するとき、いや、おなじ日本人と接するときだって、「あなたと私は、違う文化で育ってきた、違う人間であること」と、「それでも、同じ人間であること」は、同時に成立し得る概念だと思っています。
これって、根底にリスペクトが必要だと思うんです。「〇〇人だから」「〇〇に住んでいるから」ではなく、ただ「このひと」に対して、同じ人間として理解しようとし続ける姿勢。それがあってはじめて、一緒に新しい関係性を作っていける、んじゃないかな。たぶん。
「絶対にできるはず、同じ人間だから」という信頼感と、「でもそのためにまず、違いを理解しよう」という現実的な視点。4P'sにはそういう、深いリスペクトの文化が根付いているような気がして、思わず感じ入ってしまいました。
いやあ、この、知らない世界に触れる瞬間。そして、自分の価値観がアップデートされる感覚。これこそが、旅の醍醐味のひとつであることよなぁ…!
というわけで、ワ活スポットであると同時に「文化交流スポット」でもあった今回の3つのお店。
どちらもオススメですので、ハノイに行かれた際はぜひお立ち寄りください🍷
そしてワインが生まれる街へ
さて今回は「ハノイ」のワ活を中心に、お届けいたしました。
わかったことは、ハノイでは、ベトナムのワインにはさほど出会えないこと――
というわけで、続く「ダラット編」では、いよいよベトナムのワインに会いに行きます。
ダラット・ワインの特徴や、ダラットのワイナリーのこと、そしてダラットでの過ごしかたについてもお話していきます。
乞う、ご期待!🍷
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■ ますたやとは:
関東在住の30代、3000円ワインの民(たみ)。ワインは週に約5本(休肝日2日)、夫婦で1本を分けあって飲みます。2021年J.S.A.認定ワインエキスパート取得、2022年コムラードオブチーズ認定。夫もワインエキスパート・WSETLevel2(英語)を取得、現在はWSETLevel3(英語)に挑戦中の、ワイン大好き夫婦です!
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