見出し画像

ベトナムのタクシーの中での葛藤と自己嫌悪ーベトナム訪問記2023(2)

成田からベトナム ホーチミンの国際空港までは所要時間約6時間30分。

9:00に出発して、現地時間14:00(東京時間16:00)に到着。
時差があり、ベトナムに着くとマイナス2時間になる。

このたった2時間のせいで、あとからジワジワとしんどくなるのだけれど、それはまた別の話。

ホーチミンの国際空港であるタンソンニャット空港に到着し、タラップから降りてターミナルまでのバスへの移動の最中、早くも32度の気温にやられる。亜熱帯ならではの蒸し暑さが、身体全体にまとわりつく。さすがにダウンジャケットもトレーナーも脱いでいたけれど、アンダーシャツ代わりに着ていたヒートテックはそのまま。背中にあっという間にびっしょりと汗をかく。

バスから降りてターミナルに入って、入国審査に向かいながらも汗が止まらない。前に来た時もそうだったけど、この空港はエアコンが効いていないのか、弱いのか、本当に蒸し暑い。

さらに運の悪いことに、いくつかの飛行機が同時に到着してしまったせいで、入国審査は長蛇の列。まったく進まない。
ダラダラと汗を掻きながら、約1時間列に並ぶのは結構きつかった。

ただし、いざ、自分の入国審査の番となると速い。

審査官はチラッとパスポートの顔写真と僕の顔を確認して、滞在期間を確認してすぐに終わり。他の国からの入国者に対しては、"なぜ来たのか?""どこに泊まるのか?""いつ帰るのか?""自国では何の仕事をしているか?"とか、質問攻めにしているのに僕には何の質問もない。

日本のパスポートが「世界最強」と言われる所以である。

世界各国で優良な国民性を知らしめてきてくれた我が国の先人たちに心から感謝する時間だ。入国審査を終えて、バッゲージクレームは行くと僕のスーツケースは無惨にも上下逆さに転がらされていた。仕方ない。これが海外である。

海外に出る時には、自分が日本人であることを忘れる、ということを一つのルールとしている。日本人の常識を尺度にして目の前のことを測るから、腹も立つのだ。

転がらされたスーツケースを起こして、鼻歌を歌いながら出口へ向かう。
両替を済ませて、タクシー乗り場に向かう。

とりあえず、ホーチミン中心地に向かうことにする。
今回の旅で一緒に行動する通訳Tさんとの待ち合わせのカフェに向かうのだ。

ホーチミンには、電車もないし地下鉄もない。移動手段は基本的にはバスがタクシーになる。バスは外国人には難易度が高いので、必然的にタクシーを選択することになる。

しかしながら、このタクシーがまたやっかいなのだ。ベトナムのタクシーは、あまり評判が良くない。ボラれることがあったり、ちゃんと目的地に行ってもらえない可能性もある。だから、タクシーを使うときには、そうとうの気合いが要求されるのだ。なので、僕はTさんと待ち合わせの場所までのタクシーを今回の旅の最重要課題と位置付けていた(大げさ)

とはいえ、ベトナムタクシーの二大会社"マイリン"か"ヴィナサン"を選べば、偉い目に遭うことも少ない。「絶対、どちらかの会社のタクシーを選ぶ!」と息巻いてタクシー乗り場に着いたものの、タクシー乗り場係員に引っ張られ、乗せられたタクシーは"そうじゃないタクシー"。。やっちまったのだ。乗ってはいけないタクシーである。でも、目の前に来たドライバーのおじさんに笑顔で"ウェルカム"と言われてしまっては、"あんたのタクシーは嫌だ"なんて言えるはずもない。それが日本人の優しさである。

先ほど、日本人であることを忘れると書いたが、早々に前言撤回である。
さらに、ドライバーのおじさん、顔が怖い。失礼。

待ち合わせ場所の地図を見せると、オッケーわかったとスムーズにタクシーは出発。ホッとしたのも束の間。おじさんがいきなり"現金用意してくれ"と言ってきた。「ほれ、みたことかー、目的他にもついてないのに金銭要求だなんて!最悪だー」なんて思ってたら、おじさんも焦ってる様子で「早くして!」と言っている。ふと見ると"料金所"のようなところで、女性がおじさんにお金を要求している。あぁそうか!空港から出るために、空港利用料金を払う必要があるんだ!忘れてた、ごめん、おじさん!すぐ払うわ!と思って、財布を開くも、ベトナムのお金は桁が大きすぎるのとお札の種類が多いのとで、すぐにどのお札を出せばいいのかわからない。

とりあえず500,000ドンを渡す。おじさん、あからさまにヒク。
500,000ドンは、日本円で2,500円くらい。そんなにいらないという。
7,000ドンが必要で、日本円で50円くらい。そりゃそうだ。500,000ドンも渡したら渡した額が大きすぎて、料金所のお姉さんも困ってしまう。

おじさんは後ろから来た車に煽られて、もういい!という感じで、自分の財布から7,000ドンを支払ってくれた。

とりあえず車は発進して、そこから少し離れた路肩に車を停めて、7,000ドンが必要な理由を丁寧に教えてくれて、その場で僕からお金を渡すことになった。降りる時に乗車料金と一緒に取ればいいのに、と思ったけど、そういうルールなのだろう。

そのあとおじさんは妙に丁寧に親切になった。
きっと気づいたんだと思う。
自分がこの日本人にボラれるんじゃないかと疑われてることを。。
なぜかって、そのあとは、目的地までのルートを前もってGoogleマップを使って教えてくれたり、だいたいの金額を教えてくれたり、メーターをちゃんと回してることを主張してくれたり、バカ丁寧と言って良い対応に変わったからだ。

その対応で僕はホッとしたのだけれど、それと同時に罪悪感に苛まれることになる。そりゃそうだ。僕がタクシーの運転手だとして、異国からの人間に頭ごなしに疑われたら結構腹が立つものだし、悲しい気持ちになるものだと思う。そう思う時、似合わない作り笑い浮かべるおじさんを横目に、とてつもなく申し訳のない気持ちになったのである。

でも、自己弁護するわけではないけれど、ベトナムのタクシーはあまり評判が良くないのは事実だし、実際僕自身も2019年の渡航の際にタクシーで一悶着を経験してるのだ。こちらにもそれなりの理由がある。目の前のおじさんには何の関係もないことだけれど。

通訳のTさんとの待ち合わせのカフェの近くに着くと、ドライバーのおじさんはここからは車は入れないから歩いてくれとのことだった。料金を提示され、まず大きなお札から渡して端数を払おうとすると、もういいよ、と言う。端数の金額を切ってくれたのだ。これはベトナムではありえないことだ。先ほども書いたように、ベトナムのお金は桁数が多い。なので、例えば5,000ドンの端数は日本円にすると30円くらい。それがお釣りで必要だとすれば、ドライバーさんは"これくらいいらないでしょ?"的な感じで、そのお釣りは"なかったことになる"。それを多くのツーリストはぼられたと表現するのだが、それはベトナムでは日常茶飯事のようだ。いいことなのか悪いことなのかは知らないけれど。だから、逆に端数を切ってくれたことで、ドライバーのおじさんが本当に良い人だったんだ、と認識させられた。 

僕はせめてもの気持ちで、ありがとうを伝え、車がUターンして帰るのを見守った。そして、満面の笑みでおじさんに手を振った。おじさんも笑顔で手を振りかえしてくれた。

心が少し痛んだのは、言うまでもない。
バイバイ、おじさん。ごめんね。

おじさんを見送り、待ち合わせのカフェに入る。
「Ancafe」というオシャレなお店。

実はこちらのお店では、Future Coffee Farm Toiさんのお豆を使っているのだ。ベトナムのコーヒー豆を、ベトナムのカフェで使う。
まさに地産地消。

若い男の子の二人の店員さんはとても丁寧で感じが良く、お店はとても居心地が良く、もちろんコーヒーも美味しかった。

しばらくゆっくりとラテを楽しみながら、移動の疲れを癒していると通訳のTさん登場。いつお会いしてもパワフルな素敵な女性。おそらくベトナムでベトナム語のうまい日本人のトップクラスの方。

しばらくお茶をしながら、近況のおしゃべりをする。

これからTさんと夜行バスで、Future Coffee Farmのあるバオロクへ向かう。所要時間4時間くらい。その前に、ホーチミンで夕食を。前もって何を食べたいか聞いてもらっていたので、僕は迷わず"コムタム"とリクエストしていた。コムタムとは、ベトナム料理で砕いたお米で炊いたご飯の上に、骨付き豚肉が乗っている豚丼みたいなもの。以前から、食べてみたいと思っていて、なかなかチャンスに恵まれなかったのだ。

カフェからほど近いTさんのオススメコムタムのお店に行く。

うまい!おいしい!

こちらのお店は少しハイソな感じで上品なコムタムになるらしい。地元のはもっと豪快な料理らしいけれど、このコムタムもピリ辛な味付けでとても美味しかった。

さて、時間もちょうどよく夜行バス乗り場に向かう。移動しながら、ホーチミンの勢いの良さを再認識する。僕はやっぱりベトナムのこの活気のある喧騒が大好きなのだ。

いよいよ、旅が本格的に始まることにワクワクを抱きながら、異国の空気をこれでもか!と吸い込むのだった。

【続く】

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?