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泊まる場所の話〜ベトナム旅行記(6)

今回のベトナム旅の間、僕は、Future Coffee Farm(以下、FCFと書く)・Toiさんのご自宅に泊まらせてもらった。というか、これまでもFCFにお邪魔するときは、Toiさんのご自宅に厄介になっている。

しかしながら、今回は、当初は、僕は別の場所にホテルを予約してもらっていた。今回の渡航は前回とは異なり、何人かの人たちが集団でFCFへ見学へ訪れることになっていた。そのため、Toiさんの自宅へ泊まることができる人数は、自ずと限られてくる。それに加えて、FCFの日本へのインポーターの先輩Hさんから、

「まっすん、今回は人数が多いからToiさんの家に泊まる人たちも雑魚寝という形になる、もし雑魚寝が苦手やったら、今回は別のホテルに泊まってもええよ。」

と前もって連絡をもらっていた。

僕は、雑魚寝が苦手というよりも、眠りが浅くなってしまって寝不足になってしまうと強度の偏頭痛を引き起こしてしまう厄介な持病を持っているので今回はホテルをとることに決めた。実は、過去の2回のベトナム訪問時にも、偏頭痛が起きてしまって、途中で安静な時間を取らなければならないというトラブルにも見舞われる経験をしているのだ。気圧の変化にも弱いので、飛行機やToiさんの自宅が標高900mの場所にあるということも考慮して、今回は体調を万全を期すために「ホテル」に泊まるという決断をしたのだった。

でも、そんじょそこらのホテルではなく、ちょっと曰くつきのホテルである。先輩Hさんが、Toiさんの豆を輸入する前、初めてToiさんの自宅を訪れた時に泊まったホテルだ。Hさんから、そこのホテルは結構大変なホテルだという"面白話"を聞かせてもらっていたことがある。Hさんからは「ほんまにあのホテルでええんか?」と念を押された。僕は、Hさんの体験した面白話を僕も体験したいという興味だけでとてつもないホテルに泊まる決断をした。

では、そのホテルは、どんなふうに、結構大変なホテルなのか?

これから結構大変な理由を列挙するけれど、一泊1000円前後で泊まれるホテルというよりはモーテル的な存在の施設だ。なので、別にそのホテルを揶揄したりしたくて、この文章を書いているのではないことを最初にお断りしたい。

まず部屋の中に「虫が多い」ということが挙げられるらしい。とはいえ、アジアを旅したことがある人ならご存知だと思うけれど、アジア各国ではどんなに良いホテルでも部屋の中をアリが歩いているということはなくはない。僕がこれまで泊まったホテルでも、割りにきれいなホテルでも基本的に部屋の中をアリは闊歩しているし、天井には蜘蛛がいるなんてザラだった。だから、僕は「Hさん、僕は虫は平気ですよ、大丈夫。」と軽く答えた。すると、Hさんは「そんなレベルちゃうで。口を開けて寝たら、口に中に虫入ってくるレベルや。」と言った。んなアホな・・・と思ったけれど、それはそれで面白いではないか・・・と少し顔を引き攣らせながら僕は思った。

さらに、シャワーは「水しか出ない」という。まぁ、1月とは言え、ベトナムだから水しか出なくても大丈夫だろう、とタカを括って、そんくらいなら大丈夫と思って、この問題もまた僕はクリアできると思った。

他にも"色々"とあるようだけれど、「まぁ、これも経験やから行ってみるんもええわな。でも、あのホテルでええこと言うたら、Wi-Fiが通っとることだけやで。」と、Hさんは笑いながら言った。

正直なところ、大丈夫だろうか?と思い始めたのだけれど、まぁ、旅先でホテルは「寝に帰るだけ」だし、もし1泊目で嫌になったら他のホテルを探せば良い。そう思って、僕はとりあえずFCFまでやってきたのだ。

けれど、FCFへ来る前に、ホーチミンで通訳Tさんとカフェでおしゃべりをしていたときに、Tさんからも

「ますおかさん、本当に"あの"ホテルでいいの?」と念を押された。

「はい。"その"ホテルでいいです。Hさんにも念を押されたけど、そんなにやばいんですか?」

Tさんも、Hさんが初めてFCFを訪れた時に、Hさんに同行してそのホテルを体験している。

「私はねー、割りにどこでも寝られるタイプなんだけれど、あそこはね・・・」と苦笑いをした。「でもね、こういうのも経験だし、ますおかさんが経験したいと思うのなら良いと思いますよ!」と笑った。

僕は、だいぶそのホテルに泊まるのが怖くなっていた。

さらに、FCFに着いてからも、Toiさんまでをもが、

「Masuoka、あなたは本当にうちに泊まらなくていいのか?本当に"あの"ホテルでいいのか?」

と聞いてくるではないか。もうここまで何度も確認されると"あの"ホテルが結構なレベルで怖くなっている。現地に住んでいる、しかもそのホテルからご近所さんのToiさんまでもが"あの"ホテルでいいのか?と念を押してくるのだ。どれだけやばいホテルなんだろう?という好奇心ももちろん湧き上がるけれども、同じくらい・・というかそれ以上に恐怖感も募ってきてしまった。

もうこの時点では、ん〜どうしよう・・・とかなり弱気になってしまっている僕。

とりあえず、初日は通訳のTさんと僕の二人だけなので、この日はホテルではなくToiさんの家に泊まることになっていた。「一晩考えてから決めるのもいいかな。明日の夜のことは明日までに考えよう。」と考えながら、Toiさんに僕が寝る部屋に案内してもらった。

部屋に入ると、過去2回ここを訪れた時にはなかった「二段ベッド」が設置されていた。

「この2段ベッドは、みなさんを私たちのところへお迎えするために、急いで作りました。」Toiさんは満面の笑みでそれを教えてくれた。

「今日、この部屋はあなただけが独占できるから、このベッドのどこを使っても良いですよ。ここもMasuが使って良いし、ここもMasuが使っても良いし、上のあそこもMasuが使って良いよ!」

と笑いながらToiさんは僕の荷物を運ぶのを手伝いながら言ってくれた。

この2段ベッドは、組み立てただけでなく、本当に1からToiさんが作ってくれたのだそうだ。二段ベッドというのは、1段目のベッドは2段目ベッドの底の影響で、割と圧迫感があるものだけれどToiさんの自宅の二段ベッドにはその圧迫感がなかった。その圧迫感がないように、一段目と二段目の高さが確保されたToiさんの特製の二段ベッドだった。二段ベッドでもくつろいでもらえるように、とToiさんがこのベッドを作ったのだ・・・。僕は、笑顔でそれを教えてくれるToiさんを横目に感動してしまった。

Toiさんと言う人は、こんなふうに、いつも誰か人のためになること、人が喜ぶことを考えている人なのだ。Toiさんのこういう部分が、僕は大好きで尊敬しているし、見習いたいと思っているところなのだ。

「マットレスもとても良いものを使っています。みなさん、長旅でお疲れになるでしょうからね。たしかにこの部屋には何人かの方に、一緒にお休みになってもらいますがこのベッドの空間はひとりひとりのプライベート空間として使ってもらえたら嬉しいです。」

とToiさんは付け加えてくれた。

実際、僕は夜行バスでバオロクに着いたあと、この寝心地のいいベッドでまさに落ちるように眠りに着いたのだった。

ぐっすりと眠れた僕は翌日から、前回のnoteに書いたようにFCFでの仕事を思いっきり楽しむことができたのだった。その一仕事を終えてから、関西空港からFCFへ訪れる仲間たちを迎えに行くために、Toiさんの車でダラット空港へ向かう時間になった。この日の夜から、僕は近所のホテルへ移らなければならない。関西組がこの部屋へ泊まるのだ。一度開いたスーツケースに僕は再び荷物をしまい始めた。空港から戻ってきたら、すぐに移動できるように。荷物をまとめ直している僕の後ろに、Toiさんがやってきた。

「Masuoka、本当にホテルでいいの?ここは、いやなのかい?」
と聞いてきてくれた。

「ううん!いやなわけないじゃないですか。でも、今回は人数が多いから。」

「大丈夫だよ。そのためにこの二段ベッドを作ったんだから。僕は、Masuがここに泊まってくれるととても嬉しいよ。」

と言ってくれた。"あのホテル"より、"ここがいいよ"と、Toiさんはイタズラっぽく笑った。

もちろん、僕はこの二段ベッドがとても気に入りました。人数が許されるのなら、ここに泊まりたい、とToiさんに伝えた。Toiさんは、僕がベトナムに着いてから、一番の大きな笑顔を見せてくれた。

「じゃ、ホテルはキャンセルするからね!」

そう言って、Toiさんはその場で"あの"ホテルへ電話をかけた。

そのあと、ずっとToiさんは上機嫌だった。FCFからダラット空港に到着するまでの2時間、Toiさんはずっと楽しくおしゃべりをしてくれていた。

Toiさんの運転する車の助手席に座っている通訳のTさんが教えてくれた。「Toiさん、ますおかさんが自宅に泊まってくれることが本当に嬉しいんだと思いますよ。」と。Toiさんはバックミラー越しに僕を見て笑った。僕は瞬時に顔を伏せてしまった。僕は嬉しくて、もう少しで大泣きしそうになってしまったのだ。別に泣くのをこらえる必要もないんだけど、なぜか目に溜まった涙がこぼれないように頑張ってしまう。

こういうToiさんからの温かい心を分けてもらうたびに、僕の心はToiさんに鷲掴みにされるのだ。僕は、あんな「男」になりたいと心から思っている。

(続く)






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