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【短編小説】灼熱の風が吹くこの星で ⑦


【SCENE 7】
 
 わたし達水の民は、本当は地の民のことが大好きなのだ。
 隠れて様子を窺わなければ、気が狂いそうになってしまうほどに……。

 なのに、ただ側に行くだけで、ほんの少し距離が近付くだけで、抑えられない殺意衝動が湧き起こってきてしまう。

 事実、わたしは今まさに、地の民を手にかけようとしていた。

 目の前にいるレルフは、生まれて始めて仲良くなった地の民の男の子だ。
 大切な人なのだ。
 なのに……。
 わたしは、どうしても彼を殺さずにはいられない。

 ――何でなんだろう?

 漠然とした疑問が頭に浮かんだ。

 レルフとは一緒に暮らしていた。
 その間、ずっと殺意衝動は湧き起こってこなかった。
 何事もなく付き合えていたはずだ。
 なのに……

 ……どうして今頃になって、以前と同じように、地の民というだけで殺したくなってしまったのだろうか?

 この間までとは、何か違うことがあるのだろうか?

 そう考えた時、一つだけ思い当たる節があった。

 それは、わたしの火傷が治ってきているということ。

 ひょっとして今までレルフを殺したくならなかったのは、わたしが火傷をしていたからなのではないだろうか?

 その可能性にたどり着いたわたしは、咄嗟に自分の喉を掻きむしった。


 一番火傷の酷かったここを、もう一度傷付ければ、この殺意衝動が消えるかもしれないと思ったのだ。

 ――いや、これはむしろ、願いに近かった。

 レルフを殺したくない!
 だから止まって! 止まってわたし!

 治りかけていた皮膚が再び荒れていく。
 引き攣るような痛みが走る。苦痛から顔を歪めてしまう。だけど――

 ――わたしはハッとした。

 僅かながらだけれど、殺意が弱まってきているのがわかったからだ。

 しかしまだ完璧ではない。レルフを殺したいという衝動の波は消えていない。
 だからわたしもっともっと喉を掻きむしった。


 もの凄く痛い。それでも必死になって自分を傷付ける。
 ……痛みと引き替えに、殺意が消えていく。
 冷静に戻れていく。

 やっぱり喉を怪我をしていれば、地の民を殺したいとは思わなくなる。
 地の民を前にしても、冷静でいられた自分に戻れる。

 このままいけば、きっと大切な彼を殺さずに済む。
 そう信じ、わたしは何度も何度も、自分の爛れた皮膚を剥がすように手を動かし続けた。






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