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私的アート思考episode.4 絵画ってどう見るの?

はじめての美術館

高校二年生のとき、I先生の提案で美術部の皆で東京の美術館に行くことになりました。
このときまで私は美術館へ行ったことがなく、有名な絵画は美術の教科書や美術室にある画集でしか見たことがありませんでした。
先生が選んだ展覧会は渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムの「デ・キリコ展」。
なぜこのときI先生はこの展覧会を選んだのかな?とときどき思い出すのですが、先生が描かれていた作品から推測するに、デ・キリコのような表現を好んでいたのかもしれません。
当時デ・キリコについてその名前も作品も全く何も知らなかった私ですが、初めての美術館!しかも東京!渋谷!といった感じの非常に軽いワクワク感を持ちながら、この課外活動に参加しました。

いざ、Bunkamuraへ

いわき駅前から出発する東京行きの高速バスに乗り、Bunkamuraザ・ミュージアムを目指しました。
Bunkamuraは渋谷の東急百貨店のお隣に立つ文化複合施設で、劇場やコンサートホール、ミニシアターなど文化的な施設が一カ所に併設されており、美術館はその地下にありました。
(この記事を書くにあたり調べてみたら、1989年に開業した日本初の大型複合文化施設なんだそうです。知らなかった…そうやって渋谷は文化を発信する街になっていったのですね!)
建物の中に入ると、演劇やコンサート、展覧会のポスターがエントランスにびっしりと貼られており、文化的なものに対する憧れがとても強かった私は、その前を通るだけで楽しい気持ちになりました。

デ・キリコを見る。

エスカレーターで地下へ向かい、受付でチケットを購入。
いよいよ美術館に入館します。
館内は作品保護のために照明が少し落とされていて、うす暗い空間にデ・キリコの作品がずらりと飾られていました。
初めての美術館。
初めての本物の絵画。
よーっし!しっかり見てやるぞーと意気込みながら絵の前に立ちましたが…

このとき、私がデ・キリコの作品を一目見て感じたこと。それは
「なんか怖い」
というものでした。

デ・キリコの作品は広場のような空間に建物やギリシャ彫刻のような彫像や顔のないマネキン、くっきりとした濃い黒い影などが様々な組み合わせで描かれているものが多く、これが何を表しているものなのか私には全くよく分かりませんでした。
ただずっとこの絵を眺めていると、なんとなく寂しいような不安なような、もやもやとした不思議な感覚が沸いてくるのは感じられました。
油絵具で描かれているのですが、割ときっちりはっきりとした色彩で描かれていて、私の中での油絵のイメージ=印象派のような様々な色彩が少しずつ重なり合って描かれている絵とは違った描き方をしており、こういう油絵の描き方もあるんだなとも思いました。

絵画の表現するもの

当時私は絵画というのは単に「美しさ・心地よさ」を描いたものと思っていましたが、このとき私がデ・キリコの作品に感じたのは、不安や怖れといったような美しさとは真逆にあるような感覚でした。
「デ・キリコさんは一体どうしてこのような怖い絵を生涯を通して何枚も描いたのだろう?」
そのような感想を持ちました。
作品のタイトルや制昨年が書かれたキャプションの横にときどきその作品の解説も書かれていたので、絵を見ながらそれも読んでみましたが、なかなか内容を理解することは難しかったです。
形而上絵画】
解説には特にこの言葉がよく書かれており、なんて読むのかすらそのときは分からなかったのですが(【けいじじょうかいが】と読みます)どうやらこの言葉がとても重要なポイントなんだろうなということだけは分かりました。
と同時に、絵画の表現するものは「美しい・心地よい」もの以外にもあるんだなという、その奥深く多様な世界の入り口に少しだけ立つことができたような感じもしました。
正直なところデ・キリコさんが何を表現したかったのかはよく分からなかったけれど、そのパワーを感じることができたし、この作品たちを見に来た人々が沢山いるということや、そんな全てが詰まっている美術館という非日常的な空間を体験できたこと自体がとても豊かなことに感じられました。

アートを鑑賞するということ

この後、私は美大受験のために本格的に美術予備校に通うことになり、勉強としてたくさんの芸術家が残した作品を直に見るために積極的に美術館に足を運ぶようになりました。
鑑賞の仕方や作品の味わい方など、よく分からないながらもこれはこういうことなのかな?と考えてみたり、作品の解説を読んだりすることで試行錯誤しながら自分なりの鑑賞方法を見つけていきました。
そのような感じで様々な展覧会を見続けていったところ、ある展覧会を見に行ったときに作品鑑賞がぐっと面白くなったターニングポイントとなるような気づきがありました。
今でもそれが私の中では美術館で作品を見るときの重要な視点となっているのですが、そのお話は時系列的にもう少し先になります。
いつか書きたいと思います。

鑑賞の仕方は人それぞれ自由なもので正解もないですし、誰かに教わるものではないのかもしれませんが、ちょっとしたことでも良いので自分なりの鑑賞方法があれば、アートをより日常的に感じることができるのではないかな?と感じています。
今はそのような鑑賞者の主体的な鑑賞方法をサポートする取り組みが各美術館で様々な工夫をされながら行われているので、とても面白い時代になってきているなと思います。

昨年秋のマティス展に行ったときにこのポスターを見つけて思わず撮影した画像ですw

そういえば、4月末から上野の東京都美術館でデ・キリコの大きな展覧会があるようです!
23年前にはよく分からなかった作家の視点やねらい、形而上絵画が何を表しているのかをもう一度体験できるまたとないチャンスなので、是非行ってみようと思っています。
このように、時を経て変化した自分が、また同じ作品を違った視点で味わうことができるというのもアートの大きな魅力の一つなのかもしれません。


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