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clubhouse寄席で再び落語に出会う

夜10時。テレビを消してiPhoneをテーブルに置き、画面の中のアプリをポチッと押す。あ、もう始まってたわ。洗濯物をたたみながら、私は音楽ではなく、落語を聞き始めた。

初めて聞いたその寄席は、初めて知る落語家さんだらけ。噺を聴きながら「どなたのお弟子さんやろ?」と検索してみると、師匠のお名前が出てくる。さらにそこから辿ると、子どもの頃から馴染みある師匠方、松鶴・米朝・文枝・春團治の『上方落語四天王』へとたどり着く。そうか。もう孫弟子さんの世代か。

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昭和40年代に大阪で生まれ育った私。幼い頃、昼間は近くに住む祖父母とその妹宅で過ごしていた。明治大正生まれの3人は、落語や松竹、吉本新喜劇が好きだった。茶の間で私がひとり遊んでいる横で、誰かがテレビで落語を観る。幼い私は噺の内容はわからんものの、その語り口調はとても心地よかった覚えがある。20歳の時に佐渡島から京都へきて、その後大阪で一生を終えた父も、落語が好きだった。長年近所の人たちが大阪の生まれ育ちと思っていたくらい、父はきれいな大阪弁を話していた。上方落語、特に亡くなった三代目米朝師匠が好きだった父は、テレビで、カセットテープで、よく師匠の落語を聞いていた。父の寝室からいびきと米朝師匠の落語が聞こえるたびに、「また消さんと寝てるわ」と母か私がストップボタンを押していた。佐渡から出てきた父は、こうして米朝落語の睡眠学習により大阪弁を習得したのであろう。

その後、父や祖父母たちと同じく、私も落語好きな子どもになった。テレビでよく観たのは大きな身振りと表情豊かな枝雀師匠、創作落語が子どもの私にもわかりやすく面白かった文珍、三枝(当時)両師匠の落語だったが、今でも覚えているのは米朝師匠の『地獄八景亡者戯』を観た時だ。地獄の風景が目の前に広がったかのように、どきどきワクワクした。そんな小学生の私を見て「けったいな子やなあ」と父が嬉しそうに笑っていた。その後、お年玉を握り、駅前デパートの小ホールの正月寄席で桂文珍師匠の落語を聞いたのが、私の寄席初め。その辺りは、よかったらこちらをお読みください。

洗濯物を畳みながらそんなことを思い出していた。スマホからは『池田の猪買い』が流れる。十三、三国、服部、岡町。あー懐かしなあ。「よかったらツイートで呟いてください」と最初に話されていたのを思い出し、ハッシュタグをつけて呟いた。噺が終わった後、その呟きを読んでくださった。ラジオの深夜放送で、自分の葉書を読んでもろた時って、こんな嬉しさなんやろな。画面の向こうのアイコンが、ちょっと近くなった気がした。

この日の演目が終わると、聴いている私たちと落語家の皆さんとのQ&Aが始まった。若い人が多いみたいだ。聞きながらツイートを眺めてみると、

初めて落語を聞きました。
初めて上方落語を聞きました。

という呟きがいくつも並んでいた。

へー、そうか。今の若い人らは、子どもの頃落語見たり、親が落語聞いたりしてへんかったんやなあ。

画面に見えるたくさんのアイコンと自分に、ものすごーく年代差があるように感じてしまった。なるほど。初めて私が米朝師匠の落語をテレビで観て「なんて落語ておもしろいんや!」と思ったように、若い人らはclubhouse寄席で初めて落語や上方落語を聴き、「落語っておもしろい」「上方落語もいいな」と思ってはるんやろうなあ。そして、お年玉を握って寄席へ行った私のように、「生で観て聴いてみたい」と寄席へ足を運ばれるんやろう。clubhouse寄席は、そんな目的があって始められたと、こちらで主催者のひとり樋口さんが話されているのを聞いた。


こういう噺は、話し手と聞き手であるお客さんを選ぶ噺でございます。そんな噺ができたこと、本当に嬉しく思います。

去年国立劇場で文珍さんの独演会に行った時、『帯久』という落語を初めて聞いた。お裁きものとも言われるお奉行様が出てくる噺で、笑いは少ないがドラマの映像が浮かんでくるような心動かされるいいお噺だった。人生いろいろ経て、50歳過ぎて、初めて面白さや良さがわかるお噺もあるんやなあと、しみじみ嬉しかった。

新しい落語ファンが広がり、育ち、年月重ねて、clubhouse寄席で落語を知った人たちが「こういう人情噺もいいね」と思うようになったらいいなあと、四天王からの落語ファンは思っている。

いつになるやはわからんが、孫ができたら私も教えてやろう「この噺家さんはな、昔clubhouse寄席言うのに出てはったんやで。今度ばあちゃんが寄席に連れてったるわ」

その前にまず、私が『生clubhouse寄席』に行きたいわ。その日を楽しみに、水曜土曜の夜10時は、clubhouseアプリをポチッとする。


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美味しいはしあわせ「うまうまごはん研究家」わたなべますみです。毎日食べても食べ飽きないおばんざい、おかんのごはん、季節の野菜をつかったごはん、そしてスパイスを使ったカレーやインド料理を日々作りつつ、さらなるうまうまを目指しております。