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狐の伝言

 気が付いたら、随分と明るい世界に居ました。
 季節外れの桜の花びらが舞う中庭に面した長い廊下を、私は衣摺れの音を聞きながら歩いていました。
 夢だと分かっているから、随分とのんびりした気持ちで歩いていたと思います。
 ただ、普段の明晰夢であれば、その見える景色はゲーム『SIREN』の背景画のようなものでしたから、あまりに明るく穏やかな雰囲気に、少々、面食らった気持ちで居りました。

 私を案内するのは、着物を着た相手。着物の色は萌黄のような蒲公英のような明るい色でした。見た目には女性に見えたのですが、立居振る舞いは男性のそれ。そして、顔は分かりませんでした。

 場に通されますと、私の目の前には、三方が置かれました。よくよく見れば、三方の上には、緑の敷布の上に小さな面子(メンコ)が2つ置かれていました。
 どちらの図も、霊感のある知人のwebアイコンです。
 そのうちの一つは、ビリビリに引き裂かれ、握りつぶされてぐしゃぐしゃでした。

 あぁ、また何かあったかな

 破れたその図のアイコンに心当たりがあるせいか、多少胸が傷みました。
 ですが、目の前の相手は、もう一方の面子について何やら言いたげな様子だったため、仕方なくそちらを見ました。

 そちらは、元の図にも狐面が描かれてはいたけれど、いつの間にか狐の顔の根付のように形を変えた上、レジン加工を何重にもしたかのように、肉厚でテカテカ光っていました。
 誰が何をしても、ちっとやそっとでは傷つかなさそうなほど、かちんこちんに固められていました。

 困ってるんだよね。

 狐面を見ながら、相手が呟くように言いました。
 何を?と思ってたら、

 とりあえず、これ
 
と、面子とは別に、三方に乗せられた、二つに割れた狐面を渡されました。

 今度の狐面は、白地の上に左目から日章旗みたいに赤い線が放射状に入っていましたから、きっと、2つが綺麗に貼り合わされていたら、赤い狐にも見えたでしょう。
 張り子の造形の荒さはありましたが、着色の繊細さが感じられる品物でした。
 私が、それをまじまじと見つめ観察していますと、相手が深いため息を吐きました。
 聞かせるような音に、ハッとしてそちらを見ますと、顔の見えない相手が、俯いた様子で愚痴のように呟きます。

困ってるんだよね。
だから、何が?
困ってるんだよね。

相手の話の意図が読めない上に、噛み合わないやりとりが埒が明かなくて、思わず
『どうすんだよ、私は直せないよ。』
と思いましたところで、目が覚めました。

 余りに荒唐無稽でありながら、はっきりと意図のあるものが感じられましたので、思い立って、面子の図になっていた方々へ連絡を取って見ました。
 どちらも、私の取り留めない話を聞いた上でお返事くださったのですが、お一方は
「いろいろ受難中」であったそうです。
もうお一方からは「少し前に狐面に念を込める作業をした」とお返事をいただきました。

 夢で見たどちらの様子も、ある意味当たっているし、あまりに漠然としているために掠りもしていないようにも感じられます。結果的に、私が見た夢は、予知夢ともいえないものです。

 ただ、あの顔の見えない相手が「何に困っていたのか」が分からないままですので、もしかしたら、それが1番重要な点なのでしょう。
 願わくば、私の手に負える段階の話であることを祈っています。

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