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モノの支援をするときに必須なものって?

2025年からカンボジアの小中学校と高校で正式に学校保健の授業がスタートするので、カンボジアの教育省は現在、急ピッチで教材と教師の準備を行なっています。もちろん国際機関やNGOなどの支援を得ながらではあるのですが。わたしたちの学校保健プロジェクトでは、保健を教える教師の育成を担当しています。

大事なものなのでしまいこんでいます

NGOで働いていたころ、カンボジアの教員養成校を訪問したとき、日本をはじめ先進国各国から寄贈された顕微鏡や理科の実験道具がごていねいに理科室の棚にしまわれて施錠されている様子をよく見ました。理科の教官に、なぜ使わないのかと聞いてみると、「実験なんてやったことないし、教具の使い方もわからないから、使えない。そもそも使ってみて壊したら弁償するお金もないし、修理にも出せないから。高いものなんですよね? 」というわかりやすい回答をいただきました。モノ”だけ”で支援をしても、残念ながら活用されないことは多々あります。でも、モノをあげておしまいの支援、よく目にしますよね?

倉庫いっぱいの教科書

カンボジアの大学院に通いはじめたころ従事していたプロジェクトでは、学校保健の副読本を制作していました。かなりの時間とお金をかけて印刷したものですが、完成後どうなったかというと、教育省の倉庫に山積みになっています、今でも。このプロジェクトが作った副読本だけでなく、国際機関やNGOの支援で製作された教材も同じ状態。「すっごくいいものなのに使わないなんてもったいない」というのが最初の感想ですが、考えてみたら、「すっごくいいもの」と思っているのは作った側のエゴであるかもしれないのです。教材だけ渡されても、「で、どうやって使うの? 教え方は?」ということに。ここに対応することが大事で、多々ある制作物を渡すだけの支援については、そのあり方が問われてもいいのにな、と思いました。

教科書と一緒に提供されるもの

現在従事している学校保健プロジェクトでは、3年の年月をかけて、カンボジアの教員養成大学の学生用の保健教科書を日本の大学の保健専門家たちがチームとなって制作しました。日本語で執筆され、英語に翻訳され、クメール語に翻訳され、校閲業務がコツコツと進められていた間にやっていたことは、300ページ強になる全16章すべての内容についての学校保健教官トレーニング。じっくりと、2年間で10回に渡って。ポイントは、クメール後でトレーニングをしたことでした。だから、教科書が出来上がって学生たちの手に渡っても、教官たちはすでに内容を把握しているので教えることに抵抗はなく、お手の物。3年前に「教育学だけじゃなく、保健の教官になれ」とか上から言われて保健を担当することになった教官も、現在では堂々と学校保健を教えています。教科書だけの支援だったらこうはいかなかっただろうと思います。教科書と一緒に提供されたのは、十分なトレーニングを受けた知識のある教官。だから、教科書も実際に学生の手に渡り活用されているのです。

教材よりむしろ教材の使い方

学校保健の教科書の第2章では「人体の仕組みと機能」について学びます。そこで、カンボジアの学校にはほとんど置いていない人体模型をプロジェクトから寄贈しました。この模型の活用方法もトレーニングに組み込まれていますので、教科書と教材がセットであることで学生の理解度も増します。しかし、教科書と人体模型があることが大事なのではなく、この2つを使いこなして教えるスキルのある教官がいるというのが大事。教員養成大学の学生たちが卒業して赴任する先の学校には教材などほとんどないとは思います。が、教材を使って理解した教師と、教科書の内容だけ暗記した教師、どちらに教わる子どもが幸せかという問いについての答えは明白です。モノの支援をするときには、それを最大限に活用できる環境を整えることと教えることができる人材を育成することだ、と今では確信しています。

モノの支援はもちろんありがたいです。ただ、そのモノが使われる場面などその先のことをちょっと考えると、支援の効力は2倍にも3倍にも10倍にもなるのではないか、そう考えたりします。教員養成大学への教科書と教官トレーニングというセットの支援は、いま大きな力になりはじめているという手応えが、現場にはあります。
いつも現地を知ろうとし寄り添ってくれるプロジェクトチームと、プロジェクト前進のために資金を提供してくださるドナーに感謝をこめて。


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