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わたしは目で嘘をつく

わたしは人に冗談を言う。
わたしの冗談で、人に笑ってほしいから。

わたしは人に嘘をつく。
だって、自分の言葉を紡げないから。
だって、何思われるか分かんないじゃん。

「魚おいしすぎる、これだけでご飯20杯はいけるわ…」
「絶対嘘やん」
「あたりまえやん、嘘よ」

口先ばかりの世界で生きていたら、なんだか、最近は息をするように嘘がつけるようになった。困った時、逃げたい時、つらい時、ううん、それだけじゃない。楽しい時だって、気持ちのいい時だって、わたしは嘘にまみれている。

嘘をつきすぎて、もうなんか、全部どうだってよくなっちゃうときがある。ついた嘘をわすれちゃった時。もう後戻りできない嘘をついた時。なんでこんなこと言ってんだろ、ま、相手が笑ってくれてるからいっか。って。わたしは自分自身にも嘘をついている。

嘘がまことになるときもある。こんなもの、すきじゃない。すきじゃなくなってしまったこともある。わたしも、あなたのことすきだよ。すきになってしまったこともあった。そんな風に、わたしはまことから目をそらして、嘘を生み出し、虚のまことをつくりあげる。虚のまことは、いつしかわたしになった。

わたしは嘘でいっぱいだ。ほんとうの自分を悟られたくない。そんな気持ちだって、ある。知られてしまうのがはずかしい。ばかみたいでしょ、人によくおもわれたい。それだけで、嘘をついてる。やってることは、ウソップと同じです。海賊が来たぞ〜〜〜〜!!!て。うそつきは海賊のはじまりなのかも。もしかしたら、わたしはプロの海賊なのかも。わたしの父親は現に海賊だからね。うん、嘘。

遅刻の理由が病欠だろうが、寝坊だろうが、今にも出産しそうなおばあさんを助けてようが、朝ごはんが蟹だったせいとか、なんでもいいけど。わたしを構成する嘘は、今にひとつもバレないっておもってた。嘘はバレても、嘘をついているわたしの本当のことは、バレないって思ってた。

でも、きづかれた。

「ちやみは目で嘘をついている。ほんとうに、上手に嘘をつくね。何度も騙された。でもね、ちやみと話していて、すぐに気づいた。きみと話す時は、口元を見るんだ。さすれば、本当のきみが思っていることが、すぐにわかる。ちやみの三白眼は、口よりもはるかにものを言うから。きみは、口角に本当に伝えたいことがあらわれる。」

わたしはこれを言われた時、運命の人に出会ったと思った。背筋が凍った。指先が震えた。彼から目が離せなくなった。この人に、今出会っておいてよかったと思った。後にも先にも、わたしは私をこんなに見つめてくれる人に、出会うことはないだろうから。そして、もっと前に出会っていたら、わたしはこの人に傾倒しすぎて破滅していたかもしれないから。今で、よかった。今で。本当に。

わたしの目は三白眼だ。目の大きさの割に、黒目がちいさい。だいたいだるそうな目をしている。よく「怒ってる?」と聞かれるし、「損をしている」とよく言われる目だ。私だけが、好きなわたしの目だった。まばたき一つせずに、わたしは嘘がつける、この目が、わたしの一番の武器だった。

「きみの目は本当に得だね。」
唐突に言われたその言葉に、わたしはびっくらこいた。今まで目で損をしてきたことしかなかったから。
「きみの三白眼は、本当に得だよ。何を考えているのか、いないのか。物憂げで、わからない。一体きみは何を考えているのだろうと、つい深く考えさせられてしまう。本当に得だね、君の目は。」

こりゃ口説き文句か?なんて思うほどの甘い言葉を撫で付けられたわたしは、もう目をそらすことしかできなくて。散々今までついてきた嘘を、きっとバレていたんだと、恥じるしかなかった。

すみません。あなたが褒めてくださった、わたしの目は、わたしが嘘をつくために使っていただけなんです。すみません。物憂げに見えたその表情も、たしかこれから出てくるハツ焼きのことを考えていただけなんです。すみません。

それから、わたしはとにかく嘘をつくときに気をつけるようになった。口元を隠すようになったし、人と目を合わせなくなった。それでも、容赦なく彼の目はわたしのこころを射抜いてくる。はずかしい。丸裸にされている気分だ。それでも、なんか心地いい。しにたい。ありえない。いやだ。いますぐ離れたい。そんな複雑な心がぐるぐるぐるぐるして、熱をだして、寝込んだ、というのも嘘で。

ちょっとだけ、嘘をつくのがこわくなっちゃった。

自分に正直に。みんなに自己開示。なんてまっぴらごめんだけど。こうしてわたしのことを分かろうとしてくれる人には、私の本当を見せたっていいのかも、なんて思うまでに成り下がってしまった。ハア〜〜〜コワイ。あ、でもやっぱりさ、

「ちょっとやそっとわたしのそばにいたくらいで、私のことわかった気になってんじゃねーーーーーよアホしねおきにいりの靴履いて家出た瞬間にうんこ踏め」

結論:これからは嘘をつくとき、ちゃんと口角に気をつける。

※このnoteはフィクションです。
実在の人物・団体とは関係ありません。

わたしが感じるこの気持ち、全部ことばにするためにいきていく!