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「ゲーテを語る」トーマス・マン著 死するその時まで書き続けていたゲーテに感動。

天気がいいので散歩がてらでかけました。

目的地は、近くのカフェです。

本を持ってきたので、珈琲飲みながらゆっくり読もうと思っていました。

ところが、

本忘れた。

思い描いていたビジョンが崩れてショックを受けながら、どうしようかと考えた結果、本を調達しようと思い、いきつけカフェとは真逆の古本屋に行くことにしました。

とりあえず今回は、文庫本一冊狙いで滞在時間3分でと決めて、入店、脇目も振らず岩波文庫コーナーへ、パッと目に入った「ゲーテを語る」トーマス・マン著を手に取り150円で購入。

眼の前にロイヤルホストがあったのでそのまま入店。

結果、カフェで本を読むが実現。

このトーマス・マン著「ゲーテを語る」は、マンが多大な影響をうけたゲーテについて語った講演集でした。

内容は、

・市民時代の代表者としてのゲーテ
・作家としてのゲーテの生涯
・ゲーテの「ファウスト」について、
・ゲーテの「ヴェルテル」

4つの講演が収録されています。

今回特に一つ心に残ったのは、作家としてのゲーテの生涯の冒頭に書かれていた、ゲーテ最後の日を詳しく描写してくれたところです。(終わりに抜粋あります)

自分の成すべき仕事に生涯をかけて取り組み、死する直前まで書き続ける姿に熱くなりました。

死の直前まで仕事に没頭できるのはとても幸せだと思います。

ゲーテの残した作品は、作家、画家、音楽家とジャンルの枠を超えて、時代を超えて、多くの芸術家に大きな影響を与えました。

自分もこれから、やるべき仕事と時間が数十年残されています。
少しでもゲーテに近づけるようになろうと思いました。

トーマス・マンについては、僕はまだ評価が定まっているほど読んでいないのです。

僕の大好きなグスタフ・マーラーが交響曲8番の初演時に、トーマス・マンと会っています。マンは、その翌年マーラーが亡くなってショックを受けた直後、ヴェニスに旅行へいき、映画でも有名な「ヴェニスに死す」を書きました。

また、僕の好きな作家であるヘルマン・ヘッセとも仲が良かったし、ゲーテとトルストイを尊敬していたので、そこも僕と共通していて波長が合いそうなのに、マンの代表作「魔の山」で挫折して以来読んでいないのです。

この機会にハマってみようかなと思っているのです。

気になっているのは、旧約聖書にあるヨセフの物語を、莫大な資料をもとに長編物語に仕上げた「ヨセフとその兄弟」なぜ、この物語にこだわったのか知りたい。

現在では入手が難しいかな。

青空文庫で無料で19冊でているので、短めのものからはじめてもいいかもしれません。

作家としてのゲーテの生涯より抜粋です。

一八三二年三月二十二日がきました。

 ひじかけ椅子にもたれ、膝を掛布団でまいて、仕事用の緑の遮光庇(シエード)を額につけたまま、ゲーテは死にました。

 死の直前に間をおいてよくおこる苦痛や不安はすぎさっていました。
 
 彼はもはや苦しまなかった。苦しむだけはもう苦しんでしまったのでした。そして、今日は何日なのかという彼の問いに、今日は二十二日だと答えると、それではいよいよ春が始まったのだ、それだけに回復も早いことだろう、と彼はいいました。

 それから彼は手を挙げて空中になにかのしるしを書きました。書きながら手は横へずれて次第に低く下っていきました。本当に彼は書いたのでした。一行ごとに下へ下へと書いたのです。

 彼の腕が下っていったのは、たしかに、上の方にこの霊の書を記す余地がなくなっていたからというばかりではなく、彼が衰弱していたせいでもありました。終には腕を掛布団の上に置いたまま書き続けました。今息をひきとろうとしている人が、眼に見えぬままにそこに書き記しているものは、どうやら同じものの繰り返しのようでした。
 
 几帳面に句読点を打つのが見え、一つ一つの文字が読み分けられるように思われました。

  やがて指が青くなり始め、動かなくなりました。

 そして、彼の眼から遮光庇を取りのけてみると、眼にはすでに曇りがきていました。

 ゲーテは書きながら死んだのでした。

「講演集ゲーテを語る」トーマス・マン著 訳山崎章甫 岩波文庫赤434−10

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