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シェイクスピアの傑作悲劇をチャイコフスキーが20分間の音楽の中に封じ込める!

「ああ、ロミオ、あなたはどうしてロミオなの?」

 憎しみ合うキャピュレット家とモンタギュー家に生まれた二人は、出会い恋に落ちる。シェイクスピアが書いた傑作悲劇を、チャイコフスキーが音楽で描いた圧巻の20分間です。

 この曲は、チャイコフスキーが音楽院を卒業して4年後の29歳の頃の作品です。初期の傑作として、コンサートでもよく演奏されます。
 タイトルの頭に「幻想序曲」付いているけれど、これは初演後改訂されたあとに付いたようです。序曲といえば、「これから、こんな内容の物語がはじまるよ」とオペラの頭に演奏されるダイジェスト版の役割があるけれど、チャイコフスキーは、まんざらでもなく、ロミオとジュリエットを題材にオペラを書こうとしていた記録も見つかっているようなので、完成されなかったのはとても残念です。

 この序曲が素晴らしいので、オペラが作曲されていたら傑作になっていたことでしょう。

 約18分間の短い曲ですけど、内容はしっかりと、ロミジュリの物語を音楽で表現しています。

簡単にこの曲の説明をしましょう。

①修道僧ロレンス 序奏
 曲のはじまりは、クラリネットとファゴットの重々しい重奏からはじまります。これは、ロミオとジュリエットの結婚式を密かに立会った、フランシスコ会の修道僧ロレンスを表現しています。ロレンスは、かつてこの地で起こった2人の恋人の悲劇を回想します。ハープの悲しみに満ちた美しい和音が印象的です。

②モンタギュー家とキャピュレット家の対立 第1主題
 続いて流れるのはモンタギュー家とキャピュレット家の対立、戦いのテーマです。弦楽器と管楽器のミステリアスな和音が交互に現れ、突然、バン!バン!と剣を交える両家の戦闘が表現されています。

③ロミオとジュリエット愛のテーマ 第2主題
 激しい両家の戦いが終わったところで、ジュリエットのバルコニーのシーンにかわります。燃えるような愛を込められたロミオのテーマ、この愛にためらいがちに答えるジュリエットのテーマ、愛し合う二人が触れ合うときに、2つのテーマも重なり、美しく高まっていきます。
 ハープが和音を奏でる間、二人は辛い別れを惜しみます。
 夢のようなひとときは終わり、再び、両家の戦闘が開始されます。第1主題(戦闘)が登場し、さらに第1主題と第2主題が再現された後に、ロミオとジュリエットの愛のテーマが同時に奏でられます。2回目の愛のテーマがクライマックスを迎えると、戦闘のテーマに激しく取って代わられるも、次第に収まります。

④二人の死
 低い持続音にのせて憂鬱な鼓動を叩きロミオのテーマの断片を悲しげに歌います。瀕死の状態のジュリエットを見たロメオは、彼女が死んだと思い違いをしてしまいます。ロメオは毒薬で命を絶ち、激しい音楽からの鋭い1音がそれを表現しています。さらにティンパニによる鋭い1音は、それをみたジュリエットが後を追って命を絶ったことを表現しています。
 木管楽器が天に昇るような音楽を奏で、最後の盛り上がりを迎え作品は終わります。

おすすめCD
 僕は、この曲を初めて聞いたのが、セルジュ・チェリビダッケとミュンヘンフィルでした。ムソルグスキーの展覧会の絵とカップリング曲でした。この曲も度肝を抜く超名演です。
 ただ、晩年のチェリ&ミュンヘンは、超超超遅い!音で悟りを表現しようとしているようだけど、かなり癖が強い演奏です。そのかわり、チャイコフスキーがどのような意図で作曲したのか、この曲の構成がよくわかってきます。ロミジュリの物語と音楽のテーマが見事に意味付けされているのがわかります。ただこれになれてしまうと、他の指揮者のものが聞けなくなってしまいます。すべてが逆に早すぎて、物足りなさを覚えてしまいます。

 そこで、初めて聞くのなら、アバド指揮ベルリンフィル(96)

 劇的に感情移入するならバーンスタイン指揮NYフィル(89)がおすすめです。↓


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