見出し画像

ピンク色のカラス『水無月の白昼夢』



カラスといえば、黒い。
黒は大人っぽくてカッコいいけど、
時折不吉な面を見せることもある。
連想して、死を思い浮かべることもある。

だからあのカラスはピンク色になったらしい。
ピンクといえば、ポップで可愛いイメージ。
後は桃とか、コスメとか、とにかく可愛い色。
目立つけど、幸運を呼んでくれそうな色。

あのカラスは自分の色にコンプレックスがあって、
だから自分の色がピンク色になることを祈って、
それも、毎日毎日教会に行って神様に祈りを捧げて、
それで奇跡が起こって、ピンク色になったらしい。

ピンク色になったあのカラスは、非常に楽しそうだった。
たしかにどんなカラスよりも、愉快そうに見えた。
きっと見た目が変わって、生きることに希望を持ち、
新しい自分を手に入れて自信がついたのだろう。

ただ、二週間後。雨の日にあのカラスは死んでしまった。
どうやら他のカラスに虐められたらしい。
色が違うからって、攻撃されたらしい。
人間もカラスも、見た目で判断する生き物らしい。

地球にいたら、あのカラスは自由には生きられなかった。
ストレスばかり抱え込んで自己否定に追い込まれてしまう。
ああ、なんてかわいそうな話だ。だけどそれが現実。
個性なんて、認められない。結局。

僕はあのカラスが描いた理想のエゴを好いていた。
多分、彼はヘヴンに行くことができただろう。
そこではピンク色の羽をはためかせながら、
自由に空を飛び回ってくれ。それが僕の望みだ。

この記事が参加している募集

#スキしてみて

525,537件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?