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逃亡者 (短編小説『ミスチルが聴こえる』)




 数えきれないほどの、見たくない過去。触れたくない時間。関わりたくない人。僕はそれらから背を向けて、ポケットに手を突っ込んで歩き続けている。苺味の飴玉は、もう残っていない。
 喧嘩。それも、些細なやつ。でも僕はカッとなって、相手に汚い言葉を吐いた。その度相手は泣いて、怒って、僕を嫌った。僕は自分が正しいと言い続けた。傷つくことが怖いから、正論を言われたら、自壊してしまいそうだから。
 馬鹿な男だと、野良猫は僕を笑う。お前には関係ないだろう、と言いたいが、野良猫はふらりと消えてしまう。
 僕は独り。哀れな男。泣きたいくらい、ダサい生き方をしている。
 いつまでも一緒にいたかった人々。朝日を眺めるような希求を、僕は夕陽に求めるけど、お前に用はないと言われているみたいに、太陽は沈んでいく。お先真っ暗。空も真っ暗。
 僕は様々な物事から逃げる、いわば逃亡者。一度失われたものは、二度と戻ってこない。
 会いたい。僕は謝って、もう一度一緒にいたいと願う。
 お月様が見えない夜。僕は寂しくてしくしく泣いた。

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