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アナザーマインド (短編小説『ミスチルが聴こえる』)




「いらっしゃいませ」
 笑顔の店員。サービス業は大変だろう。きっと、あの人の心の中は、黒い。
 僕はスッと彼女の心に侵入して、覗く。罪深き行為とは思うが、生まれつき持っている奇妙かつ貴重な特殊能力を使わない理由もない。
『あーあ。しんどい』
 それはそうだ。仕事はしんどい。
『なんか、鬱憤ばらしにハワイ行きたいなあ』
 今はクリスマスが近づいている繁忙期。わかる気もする。
『駿くん。どうして私を振ったんだろう』
 なるほど。それはかわいそうに。
『私、何かしたかな?』
 恋とは突然始まり、突然終わるものだ。神出鬼没。気まぐれな感情に過ぎない。
『あ、この人かっこいい。え、どうしよう。めっちゃドキドキする』
 ほらね。
『でも、私には健斗くんもいるし、誠司くんもいる。どうしよう!』
 僕は彼女の心から抜け出して、「何だこいつ」と独り言を吐いた。

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