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階段


 目の前にある階段を下るか、それとも上るか。

 上には大好きな人がいる。下にはじぶんを育ててくれた親がいる。

 僕はちょうど真ん中にいて、上下を見渡す。

 大好きな人は羽を持っていて、飛び立とうとしている。

 親は穴を掘るためのスコップを用意していた。

 僕はどちらへ行っても、今の世界にはいられないことを知る。

 真横には、連れ添った犬が寝転んでいる。

 暇そうに目を細めて、うたた寝でもしているのだろうか。

 僕は犬を起こして、どちらがいいか尋ねてみる。

 すると犬は「自分で決めろ」と言って再び眠りについた。

 おい、起きろよ。しかし、犬の呼吸は止まっていた。

 大好きな人は僕を手招きしている。

 親は僕のために料理を作っている。

 大好きな人はにっこりと笑っている。

 親もまた、緩やかに笑っている。

 僕はどちらへ行けば幸せだろうかとひとしきり考える。

 すると突然、カウントダウンが鳴り響いた。

 10、9、8、7。数字は確実に減っている。

 僕は頭を抱える。どうしたらいいんだよと叫ぶ。

 6、5、4。大好きな人も親もおいでと僕を呼んでいる。

 3。チラリと見えた、悪魔の顔。僕は決心する。

 2。これは仕方のない決断だ。神様どうか、僕を許してください。

 1。大好きな人がつけていた羽は、よく見ると真っ黒だった。

 僕は階段を駆け下り、親が待つ食卓へ向かった。

「いただきます!」

 親が作ったオムライスは絶品で、変え難いものだった。


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