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箒星(短編小説『ミスチルが聴こえる』)
今、僕の上を一つの光が放物線を描いてどこかへ飛んだ。それは球状だけど細長い残像を置き、そのあとも永遠にその場所は輝いているように見えた。
未来って言葉を僕は嫌っていた。そして、光って言葉もまた僕は嫌いだった。
彼女が死んでから五年。僕は定規で線を引いたような、真っ直ぐな人生を歩んできた。波が立つこともなく、風が吹いて歪むこともなく、かけ違うボタンみたいにズレることもなく、僕は淡々と生きていき、感情はポケットの中にしまっていた。
そうしないと、涙が溢れてしまうからだった。
僕が好きだった彼女は、五年前に海に沈んだ。生きることに対して何かが引っかかっていたらしく、どれだけ僕が愛していると言っても、彼女の心に響くことはなかった。加えて、彼女は未来って言葉が嫌いだったし、光って言葉も嫌いだった。
「どうしてあんな見えないものを崇拝する人たちがいっぱいいるんだろう」
そんなふうに、いわゆる前を向ける言葉を彼女は心底憎むようだった。だから僕も同じような考えになった。
僕はこの五年間、どこかで彼女のことを覚えていて、しかしほとんどは忘れていった。笑顔も怒った顔も悲しい顔も、全部モヤがかかっていて、はっきりとしていなかった。何を一緒に食べたのか、どんな場所で寝たのか、何を話したのか、写真を見返しても、鮮明に覚えている記憶はほとんどなかった。
どうして、人間はすぐに忘れてしまう生き物なのだろうか。それが運命だというなら、人間はとても残酷な生き物だ。
僕の頭の上を光の球が飛んだ。きれいな弧を描き、誰かの希望となった。それがもしも僕にとっての希望だとしたら、僕は未来を好きになり、光を好きになることができるだろうか。しかしそれは、僕の中から彼女を抜き取ることになるだろう。僕は何を望んでいるのか、自分でもわからなかった。ただ一つ、僕の目から出る涙はとても熱かった。
箒星は、僕をどこへ連れていくのだろうか。
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