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君のこと以外は何も考えられない (短編小説『ミスチルが聴こえる』)
かき氷を食べて頭にキンとくる感覚。僕はあれが好きだった。変わり者。変だね。でも好き。君はいつだって僕を肯定してくれた。特に深い関係じゃない。おそらく幼なじみ以上の関係にはなれない。それでも僕は、君のこと以外何も考えられなかった。
「幹雄、わたし彼氏できたんだ」
四月の風は卑怯で、生暖かくて心を和やかにさせようとする。
「へえ、そうなんだ」
桜は、まだ散っていない。時間が経てば少しずつピンク色の世界が終わっていくだろうけど、抗う生命だってある。ドクドクと脈を打ち、ダラダラと血を循環させ、好きでいる気持ちを保とうとする心だってある。
それでも、現実は変えられない。
「今度、お祝いにケーキでも買ってあげるよ」
「ケーキって。子供じゃないんだから」
「子供じゃなくたって、お祝いは必要だよ。その彼氏さんは、君にとって大切な人でしょう?」
君は、迷いなくうなずいた。
「大事」
僕はあらゆる内臓に声をかける。もう、僕には届かないから、落ち着いていつも通り生活しようと。脈も、流れる血も、心も、何もかもが「諦めるの?」と聞いてくる。うん、と僕は答える。
「やっと見つけたんだ。大切な人」
君は満足そうに言った。僕は君の気持ちを尊重したい。だからこそ、ここは引き下がる。君のこと以外何も考えられない生命だからこそ、僕は君の幸せを願う。
「そっか。素晴らしい人と出会えてよかったね」
僕は笑った。本心から笑った。大切な人が幸せになる姿は、素敵だから。
涙を流すのは、一人になってからでいい。
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