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ためいきの日曜日(短編小説『ミスチルが聴こえる』)




「出かけてくる」
 美月はソファから立ち上がって、支度をして家を出る。最近、日曜日になると決まって家を出ていく。僕は気になって、バレないように美月を尾行する。
「お待たせ」
 美月は僕に見せない笑顔で、見知らぬ男と腕を組む。
「どこ行く?」
 美月の声が弾む。そっか、美月には好きな人がいたんだ。悔しいけど、幾分か清々しい気持ちになった僕は、本気で彼女のことが好きではないのだろうかと、自分の気持ちを疑問に思う。美月と一緒に寝た数々の記憶が、一斉にブラックアウトする。そこに白文字で書かれる文字は、蝉くらい呆気なく死ぬ言霊となって、ノクターンを奏でている。
「ただいま」
 美月は夜になって帰ってくる。僕は「おかえり」と迎える。
「夕飯作っておいたよ」
「ありがとう」
 僕と美月は、静かにスパゲティを巻く。僕は言わない。真実を隠す。もちろん美月も真実は言わない。お互い、傷つくたくないから、真実を言わない。
「一緒に寝よ」
 食後、美月は僕を誘ってベッドに入る。そして僕たちは普通にセックスする。何の抵抗もなく、ありのまま美月は喘ぐ。僕は単純に快感を覚える。
「私、あなたのことが好き」
 美月は、間違いなく僕に嘘をついている。だけど、僕は美月の偽りの愛に応える。
「僕も美月が好きだよ」
 美月、君はどこに愛を求めているんだ? 僕にはわからない。君が浮気をする理由が。
「ずっと一緒にいてね」
 果てた僕に、美月は笑顔で言った。そこに、嘘があるとは思えなかった。僕は想像をする。ピタリとハマらないピース。それを美月は、捨てないで喰べる。君の心の声が聞こえる。
「私は、愛が欲しい」
 やはり僕には、美月の感覚が理解できない。それでも、美月が向ける僕への愛情は、本物かもしれないと感じてしまう。それは僕が愚かだからか、それとも傷つきたくないからか。ときに、正解を伏せることも必要かもしれない。僕は心で応える。
「わかった」
 美月は口に三日月を浮かべて、もう一度僕とキスをする。僕は美月が向ける不可解な愛を受けつつ、心で少しだけため息を吐く。
 僕らの歪な日曜日は、これからも続く。

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