文字で描く理想ちゃん『ファストフード物語』
身長180センチ、体重67キロ。
お目々ぱっちり、高い鼻、シュッとした顎。
細マッチョ、ツルツルの肌、綺麗な爪。
文字で描く理想ちゃん。現実より正しい。
正義感、真面目、人想い。
スポーツ万能、芸術家、多才。
眩しい笑顔、円満な家族、金持ち。
将来有望な彼は、現実より正しい。
主演で映画に出ちゃったからムービースター。
ヒット曲で武道館に立っちゃうロックスター。
何を着ても似合っちゃうオシャレ番長。
理想を詰め込んだから、ドリーマーかな。
現実なんて無視、無視、蒸しちゃってさ、
理想ばかり描くよ理想ちゃん。
ハンバーガーを食べているあいつを貶して、
フライドポテトをフレンチフライと言い換えて。
今まで付き合った彼女は10人越え。
もちろん自分から告白したことはない。
だって彼はカッコいいからね。
理想ちゃんに不足する部分なんて皆無。
今日も美女から告られる。ドキドキが加速する。
だけど理想ちゃんは振っちゃう。
そして真実を告げちゃう。
「君にお似合いな人間がいるよ」
そんでもって、友人Bを差し出す。
Bは美女が好きだった。
理想ちゃんはいつだってやさしい。
だって理想だから。欠点なんていらない。
全て自分中心に回る世界だから。
文字で描く理想ちゃん。今日も輝く理想ちゃん。
シャーペンの芯が折れる。僕は苦いコーヒーを飲む。
ふうっと息を吐いて、理想の自分から離れる感覚を味わう。
テーブルの上には、ハンバーガーとフライドポテトのゴミ。
捨てるのも面倒で、置きっぱなしになっている。
だせえ生命。怠惰する脳みそがのうのうと生きている。
理想? 僕はいったい、どこへ向かうのだろうか。
携帯が鳴る。仕事先からのメール。僕はため息をつく。
現実はタフだ。そんでもって、灰色にくすんでいる。
文字で描く理想ちゃんは、虹色のオーラを纏っている。
僕はそれに近づこうとするけど、すぐに引っ張られる。
現実よ、こんにちは。理想ちゃん、さようなら。
二十二時。僕は立ち上がって、ハイボールを取りに行く。
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