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必要悪少年

 傘をささず、少年は一人路地裏でタバコを吸っている。
「非合法が俺のテーマだ」
 少年は一斗缶にワンカップを置き、「これはスープだ」と言う。灰色の水たまりに沈んでいるオレンジジュースの空き缶は潰れている。野良猫が落ちている焼き鳥の缶詰を舐めていて、エロ本は破かれた状態で死んでいる。何もかもが無残で、しかし生き物の匂いがしている。
「どうだ、調子は?」
 俺が訊くと、少年はつまらなそうに笑い、「まあまあだ」と答えた。
「良くも悪くもない、ってことか?」
「この情勢の中なら、よくやっているんじゃないか。だけど誰も褒めてくれない」
「そりゃあ、処分する仕事なんて誰も褒めやしないさ。それでも、お前は非合法をテーマに生きている。今日だって一人ヤッているわけだから」
 少年は、やはりつまらなそうにする。
「コンビニの店員は、店に売っている商品を売ることが仕事だ。それは誰かを幸せにすることができる。俺は人を処分することで、誰かを幸せにできているだろうか? と、疑義する自分がいる」
「非合法で生きていることが怖くなったか? 怖いなら、別に止めればいいだけだ。もっと普通の生活をすることだってできる。学校へ行って友達を作り、部活動して青春を送る。大学受験のために勉強して、ゆくゆくは大手に就職できるように努力する。そんな生活を送っても、誰もお前を恨んだりしないさ」
 しかし、少年は今日一番の破顔をして、エロ本を拾って、その表紙をを思い切りちぎってみせた。
「勘違いしていないか? 俺は誰かを幸せにできるか、それを考えているだけだ。辞めたいなど一言も言っていない。それに、俺はもう結論を出している。心配すんな。俺はこれからもこの世界のために処分し続けるから。コンビニの店員が商品を売るなら、俺は邪魔な奴らを消して、円滑な社会を作り出す。それだけだ」
 俺は裂かれた女優を哀れに思い、少年を見て「そうか」と彼の決意を受け止める。彼の『普通』ではない顔を脳に刻み、「お前は大手には就職できないな」と言えば、少年は「高校にすら行ってねえよ」と冗談みたいな真実を口にして苦笑した。

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