フットボール観戦の合間(短編小説)
「なあ、清水」
フットボール観戦の合間、中村は僕に声をかけてきた。神妙で、物憂げな雰囲気。
「何?」
僕は自然な返しをする。
「清水は、この先どうする?」
深夜一時。僕らは未来の話をする。
「僕は夢を目指すよ」
「そうか。俺は、諦める。じゃないと生きていけないからさ」
ハーフタイム中のCMは愉快な音を鳴らし、次から次へと魅力的なコンテンツを繰り出してくる。対して、中村の展開は終わりを告げる。
「でも、諦める必要はないんじゃない? 仕事と平行してやればいいと思うけど」
だが中村は「スパイクは捨てた」と言った。
「もう、俺の夢は終わったんだ。俺はプロになれない。プロになれないなら、サッカーなんてやる理由はない」
それから彼は、ポップコーンを食べながらテレビ画面を見つめた。煌々と照る中村の部屋は、夕飯に頼んだチーズピザの匂いが充満している。コカコーラのペットボトルが転がり、アイドルの顔面が映し出された雑誌がテーブルに置かれている。
「僕だって、夢を叶えるのは不可能かなと思っているよ」
だけど、道は続いている。実際、途切れるのはまだまだ先だって信じている。
「でもさ、僕は単純に、ギターを弾くことが好きなんだ。プロにはなれないかもしれない。だからといって、ギターを捨てることはできない。それは情熱が鎮火しているようで、ただただ虚しいだけだから」
「清水は前向きだな。うらやましいよ」
中村は新しい缶チューハイを開け、ゴクッと喉を鳴らして飲んだ。
「夢を叶えるのは、ほんの一握り。それを教えてくれない大人は、ほんと罪だよな」
しかし苦笑する中村は、どこか潔い顔をしていて、諦めというよりは一抹の希望を見出そうとしている顔だった。
「だけど清水の言うことも間違っていないな。一生をかけて好きなことを楽しむ人生は夢を叶えるよりやりがいがあるかもしれない」
画面を見ると、いつの間にか後半戦が始まっていた。
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