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鬼が豆を投げる(寸劇)


 俺は自分の運命を受け入れよう。これは仕方がない。世の中、我慢しなきゃいけないこともある。俺は立派な大人だ。こんな苦行、屁でもない。
「鬼は外! 鬼は外!」
 でも、痛い。容赦ない子供たちの襲撃に、俺は少しびっくりしている。子供は手加減を知らない。にしても、全力過ぎる。今は鬼のお面をつけているかもしれないが、俺はお前たちの父親だぞ。この間ゲームソフト買ってあげただろう? 水族館に連れて行っただろう? お前たち、そんな素晴らしい思い出を忘れたのか?
「翔、蓮、もっと強くやっちゃいな」
 エリ。お前ってやつは、鬼だな。おい子供たち、本物の鬼はお前たちの隣でニコニコ笑っているぞ。そっちに投げたほうが、鬼退治できるぞ。
「オッケー! 鬼は外! 鬼は外!」
「鬼は外!」
 まあ、「お母さんの方が鬼だぞ!」なんて言ったら最後。俺は、確実に殺される。
「わー、やられたあ」
 俺は地面に倒れ、仰向けになって天井を見つめる。これが父親の宿命。
「さ、次はわたしの番ね」
「え?」
 エリ。お前まさか……。
「鬼は、外!」
 いてえ! 元ソフトボールのエースが、俺に目掛けて豪速球を投げる。豆じゃなきゃ、俺はとっくに死んでいる。
「ちょっと待て、もっと手加減してくれよ」
「いやよ。手加減したら、鬼退治できないでしょう。全力でやらないと」
 『やらないと』が『殺らないと』に聞こえる。まじかこの人。
「鬼は外! 鬼は外! ほら、翔も蓮も一緒に」
「鬼は外!」
「鬼は外!」
 俺は心の中で思った。鬼が豆を投げていると。


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